ペンギンの憂鬱 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
売れない短編小説家のヴィクトルは、動物園が餌代を払えないためにお払い箱となった皇帝ペンギンのミーシャを引き取ってキエフで暮らしている。新聞の追悼記事「十字架」の執筆記者となり、まだ生きている人物たちのもしもの時に備えて詩的な追悼記事を書き溜めていくが、彼が追悼記事を書いた人物たちは計画的に「処理」されていくようだ。彼自身もよく分からないままに命を狙われ、無自覚のうちに危機をやり過ごし、しかしある日別の男がヴィクトルの「十字架」を執筆していることを知る。そこに記されていたのは、政治的陰謀に加担し、多くの人物の死に関与しながら、最終的に自殺したヴィクトルの一生だった。 心臓病があり憂鬱症のペンギンミーシャについて、ペンギン学者は、本来南極で生きる体の構造になっているペンギンが、全く環境の違うキエフで生きるなら病気になって当然だと言う。解説にもあったが、1996年のキエフは、ソ連から離れたばかりのウクライナが混乱していた時期で、マフィアや犯罪グループが横行していたから、そんな社会不安もあるんだろう。が、ほのぼのしてるように見えて展開がホラー。鍵変えても誰かが夜中に家に侵入してきているようだとか、突然友人が4歳の娘ソーニャを預けにきてサンタさんとしてピストルと多額の現金を置いていくとか、知らない男が自分の愛人に近づいて自分のことを根掘り葉掘り聞いているとか、全体的にじわじわ怖い。あと謎にペンギンを葬儀に連れて行きたがる謎の男リョーシャも怖い。その葬儀は、ヴィクトルが十字架に書いた人たちのものだったと最後にわかるのも怖い。ペンギンがインフルエンザになって、心臓移植が必要で、4歳の子供の心臓でなければいけない、って言われたあたりで、ソーニャの心臓が移植される線かと思ったら違ってよかった。南極にミーシャを送り返す手筈を整えていたヴィクトルが、最後に一人で南極大陸委員会の人に会って「私がペンギンです」って言う結末が思いも寄らなくて、喜劇的で好きだ。ヴィクトルを殺すためにミーシャの病院で待ち構えていた人たちは拍子抜けしただろう。 ミーシャがかわいくて、私もペンギン飼いたい。うちの皇帝ペンギンの等身大のぬいぐるみにミーシャって名前つけようか。
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ロシア語で書かれたウクライナ文学。 見せかけの平穏な日常の裏側に隠れる不穏な空気。そこにペンギンのミーシャという存在が、なんともいえないコミカルさを加えています。
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職もなく恋人も失った売れない作家である主人公ヴィクトルは,動物園から引き取ったペンギンと暮らしている.そんな彼に新聞社から「生きている人たちのXデイに備えて,事前に追悼記事を書いておく」仕事を依頼される.その仕事は軌道に乗るが,不思議なことに書いた追悼記事が次々に使われ,なぜか女...
職もなく恋人も失った売れない作家である主人公ヴィクトルは,動物園から引き取ったペンギンと暮らしている.そんな彼に新聞社から「生きている人たちのXデイに備えて,事前に追悼記事を書いておく」仕事を依頼される.その仕事は軌道に乗るが,不思議なことに書いた追悼記事が次々に使われ,なぜか女児を引き取ることになり,また,ヴィクトルの周りでも不穏な事件が起こり始める.一体,この追悼記事は何なのか? 不思議なテイストなのだが,一応,ミステリーなのだろう.作者はウクライナ人.
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ウクライナ戦争が始まったころにクルコフのウクライナ日記を読みこの本を買っておいた。今読んでみてものすごくエンターテイメント性あふれるサスペンス小説だった。独身の小説家の男が鬱のペンギンを動物園から引き取りペットとして対等な関係で生活をしていくシチュエーションも面白い。 新聞に...
ウクライナ戦争が始まったころにクルコフのウクライナ日記を読みこの本を買っておいた。今読んでみてものすごくエンターテイメント性あふれるサスペンス小説だった。独身の小説家の男が鬱のペンギンを動物園から引き取りペットとして対等な関係で生活をしていくシチュエーションも面白い。 新聞に追悼記事を生前から書いていき事件に巻き込まれていく話は不気味だ。 4歳の少女を引き取りその面倒を見る若い20代の女性と3人とペンギンとの愛のない生活を綴っていくところも男のやさしいキャラクターを表している。 ソ連崩壊後のウクライナの混乱した政情での設定だけど政治性もあると思うがエンターテイメントとして難しく読む必要もない小説だった。 最後40ページ余りの物語の展開は一気読みさせられた。
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ロシア語で書かれた小説にしては読みやすかった。名前の呼び方が変わらなかったからだと思う。そこはロシアとウクライナの違いだな。 不思議ミステリーという感じだったが、印象に残っていることは、物語全体を覆っている寂しさや孤独感です。ストーリーが進むにつれて色んな人と交流して楽しんでいる...
ロシア語で書かれた小説にしては読みやすかった。名前の呼び方が変わらなかったからだと思う。そこはロシアとウクライナの違いだな。 不思議ミステリーという感じだったが、印象に残っていることは、物語全体を覆っている寂しさや孤独感です。ストーリーが進むにつれて色んな人と交流して楽しんでいる主人公は、ふとした瞬間に孤独感?一人の感覚?を感じている。これは私も分かる気がするもので、人といる時は楽しかったりするんだけど、家に帰るとその楽しさが、家に帰った瞬間と連続していない感じがした。それは家の中に誰がいようと1人でいようと同じ。 また主人公にとってはペンギンだけが癒しの存在で、気にかける存在であり、そのおかげで、主人公がなんだか完成された世界にいる人という感じがした。そういう世界を作れた主人公が、ちょっと羨ましい感じがするかも。
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ウクライナのキエフ(キーウ)でペンギンのミーシャと暮らす売れない小説家のヴィクトルは、ある日、出版社から「十字架」を書く仕事を依頼される。 不穏な空気+ペンギンの物語→ 1990年代、ソ連崩壊後のウクライナが舞台。戦後の日本にしか住んだことのない私には最初、とても不思議な気持ち...
ウクライナのキエフ(キーウ)でペンギンのミーシャと暮らす売れない小説家のヴィクトルは、ある日、出版社から「十字架」を書く仕事を依頼される。 不穏な空気+ペンギンの物語→ 1990年代、ソ連崩壊後のウクライナが舞台。戦後の日本にしか住んだことのない私には最初、とても不思議な気持ちになった。 家の外の世界はとても殺伐としているのに、ヴィクトルのキャラとペンギンのミーシャがその世界から少し浮いていて、それがとても絶妙。一気に読みやすくなる。→ でも、ペンギンのミーシャは動物園が閉園するタイミングでヴィクトルが貰い受けているわけだし、この時点で今の日本にはない感覚なんだよね。 終始この「感覚はわからないけど、何となくわかる」みたいな感じが魅力的なお話(語彙力なさすぎなんだけど伝わってー!) 読んでよかった(語彙力喪失)
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閉館した動物園から引き取ってきたペンギンのミーシャと二人で暮らすモノ書きのヴィクトル。著名人が亡くなった際に新聞に掲載する通称「十字架」を書く仕事を引き受けるが、出先の宿では銃声で目を覚ましたり、引き受けた子供の親からピストルを受け取ったり、常に陰鬱な緊張感が続くロシア文学らしいウクライナ文学。 ソ連崩壊後のウクライナの世相をよく表していると解説にもあったが、まさにそのとおりだと思う。ミーシャは動物園という囲いの中から出ても、自分の属していない土地に居るより他なかった。ウクライナもまた、ソ連崩壊後、世界の中で自分たちの居場所を見失っていた。 ヨーロッパ(特に冬の寒さが厳しい地域)の文学では孤独な人間が不条理を押し付けられ、苦悶のうちに死ぬ。みたいな物語がちらほらあるように思うけど、これは厳しい冬がそういった無力感みたいなものを人間に与える面があるのでは、とも思う。
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短編作家の主人公が謎の仕事を引き受けるが、 徐々に明らかになってゆく。 共に暮らすペンギンがなんとも魅力的。途中から一緒に暮らす彼女や子どもとの日常もほっこりするが、主人公は彼女らに愛はないと思っている。 最後のオチがあっと言わせる。 旧ソ連ぽいなーと思わせる管理統制社会、闇社会...
短編作家の主人公が謎の仕事を引き受けるが、 徐々に明らかになってゆく。 共に暮らすペンギンがなんとも魅力的。途中から一緒に暮らす彼女や子どもとの日常もほっこりするが、主人公は彼女らに愛はないと思っている。 最後のオチがあっと言わせる。 旧ソ連ぽいなーと思わせる管理統制社会、闇社会の面影。
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初めから終わりまで薄暗く、不穏であり、春の陽射しのように温かくありながらも、常に冷気が優しく吹いているような小説でした。 このあと、彼らはどうなったのか? そんなふうに思わせる小説、僕は好きです。
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面白い。 村上春樹風のカフカ、あるいはカフカ風の村上春樹でもいいけど。 (ブラック)ユーモアあふれる名品。
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