田辺聖子全集(1) の商品レビュー
2004年の発行なので、つくづく「今さら」ではありますが、 集英社から出ている田辺聖子全集の装丁が素晴らしいのです。 装画は小倉遊亀。 田辺さんの本の装丁に関しては、自分の好みとちょっと違うものが 多いなぁと思っていましたが、この全集は華やかで田辺さんらしい。 さて、この全集に...
2004年の発行なので、つくづく「今さら」ではありますが、 集英社から出ている田辺聖子全集の装丁が素晴らしいのです。 装画は小倉遊亀。 田辺さんの本の装丁に関しては、自分の好みとちょっと違うものが 多いなぁと思っていましたが、この全集は華やかで田辺さんらしい。 さて、この全集には、 「私の大阪八景」「しんこ細工の猿や雉」がおさめられています。 大阪八景のほうは、少女時代。ちょうど戦中、戦後。 田辺さんは大阪の大きな写真館という 恵まれた家に生まれていますが、戦争で焼けてしまい、 戦後はかなりご苦労があったようです。 前から思っていましたが、お嬢様生活からの転落について 愚痴っぽく語るということがほとんどありません。 自己憐憫というのが、自分には甘く、うっとりするようなものでも、 他人には決して良い香りではないことを知っていられるのかもしれません。 少し驚きがあったのは「しんこ細工の猿や雉」。 作家としてデビューするまでの、事務員として勤務したり、 文学学校に通っていたころの自伝的小説、文学的自叙伝と いっていいものです。 あの練れた性格の田辺さんでも、ずいぶん腹を立てたり、 へこんだり、くすんだり、あせったりしている。 小説の懸賞に応募するときに、こっそり年齢詐称もしている。 「できた人」田辺さんも、若いころは迷ったり、 やけになったりしたことがあったんである。 誰だって、ああでもない、こうでもないと struggleする日々があるんである。 そう思うと、なんとなく勇気づけられるような気がする小説でした。
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