8月の果て の商品レビュー
1936年のベルリンオリンピックのマラソン金メダリスト、孫基禎と同時代の有望な長距離ランナー、李雨哲、走ることが生きがいだった祖父が、なぜ競技も国も家族も捨てて、日本へ逃れたのか?12歳年下の弟、李雨根ら李家一族の物語を軸に、激動の時代に重ねて描く長編小説。とぎれとぎれの新聞連載...
1936年のベルリンオリンピックのマラソン金メダリスト、孫基禎と同時代の有望な長距離ランナー、李雨哲、走ることが生きがいだった祖父が、なぜ競技も国も家族も捨てて、日本へ逃れたのか?12歳年下の弟、李雨根ら李家一族の物語を軸に、激動の時代に重ねて描く長編小説。とぎれとぎれの新聞連載中も、大きな反響を起こしましたが、今までに読んだ柳さんの本の中では、 一番すばらしい、ズッシリ重い厳しい内容ですが、暗くはなく感銘を受けました。『すっすっはっはっ』というランナーの呼吸音の間に、走者の意識が流れる印象的な文体。「死者」が語るというスタイル、どうすれば、ほんとうは不可能な「死者」に語ることができるのか? 名前と祖国を失った一人の男、李雨哲、名前と祖国を失うということは、言葉を失うこと、だからここに書かれているのは言葉を失った者たちの悲劇、しかし悲劇は「彼ら」だけだったのか?我々もまた、そのことに気づかぬまま言葉を失っているのではないか?奪った国の言葉と奪われた国の言葉が、かつて見たことのない美しさで並び立つ、この小説の言葉の連なりの中に、我々と「彼ら」が共有することが可能な未来を見たような、 そこに確かに一人の男の声が、さらにその向こうに、たくさんの声が聞こえたような気がしました。少し前に、村田喜代子さんの渡来陶工一族の結婚騒動『百年佳約』を読んでいたので、死者が語ることや、韓国の結婚や葬儀について多少馴染みがあったのがよかったのでしょう。柳さんも、小説を連載される前にフルマラソンに挑戦し、4時間54分22秒で完走されています。 苦しいときに聞こえてきた、名付け親でもある祖父の言葉『痛みはおまえの敵じゃない すっすっはっはっ 痛みはおまえの伴走者だ すっすっはっはっ すっすっはっはっ 痛みの果てにおまえの名が待っている すっすっはっはっ』
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(2004.03.16読了)(新聞連載) (「MARC」データベースより)amazon 祖父はなぜ、競技も国も家族も捨てて、独り日本へ逃れたか。幻の五輪マラソンランナーだった祖父の生涯を追いながら、戦前から現代に至る朝鮮半島と日本の葛藤をえぐりだす。『朝日新聞』夕刊および『新潮』...
(2004.03.16読了)(新聞連載) (「MARC」データベースより)amazon 祖父はなぜ、競技も国も家族も捨てて、独り日本へ逃れたか。幻の五輪マラソンランナーだった祖父の生涯を追いながら、戦前から現代に至る朝鮮半島と日本の葛藤をえぐりだす。『朝日新聞』夕刊および『新潮』連載を単行本化。 ☆関連図書(既読) 「命」柳美里著、小学館、2000.07.20
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