やさしい訴え の商品レビュー
「人を求めるのに、理由はないよ」 傷ついても傷ついても、何故人は人を求めるのかな。 求めて満たされた満足感は永遠ではないのに。 余計に辛くなるのに、求めずにはいられない。 読み終えた後のこの喪失感がたまらない。
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人はそれぞれに収まる居場所がある。新田さんと薫さんはチェンバロという共通の世界の中で幸せを共有する2人でありその世界に瑠璃子が入ることはできない。不倫で分かれた旦那と不倫相手にもそんな世界があったのだろう。奪われた側は呆気なく感じるが、奪う側に立つとなかなか共通の世界に入り込むと...
人はそれぞれに収まる居場所がある。新田さんと薫さんはチェンバロという共通の世界の中で幸せを共有する2人でありその世界に瑠璃子が入ることはできない。不倫で分かれた旦那と不倫相手にもそんな世界があったのだろう。奪われた側は呆気なく感じるが、奪う側に立つとなかなか共通の世界に入り込むということはできない瑠璃子の気持ちが鮮明に描かれている。居場所がない孤独は自分自身しか知り得ないものだと思う。そんななかで生きるリアルさが鮮明に映し出される作品だった。 小川洋子の作品は3作目だが情景や感情が非常に丁寧かつ繊細に描かれていた。
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夫から逃げるように向かった別荘地で過ごす瑠璃子と、同じように林の中で生活するチェンバロ作者の新田氏、薫さん、そして宿のおばさんたちとの関わりが描かれた作品。 新田氏への恋心を持て余す瑠璃子の気持ちに共感したのと同時に、非日常の世界の優しさが身に染みた。 いつかはそこから離れなくて...
夫から逃げるように向かった別荘地で過ごす瑠璃子と、同じように林の中で生活するチェンバロ作者の新田氏、薫さん、そして宿のおばさんたちとの関わりが描かれた作品。 新田氏への恋心を持て余す瑠璃子の気持ちに共感したのと同時に、非日常の世界の優しさが身に染みた。 いつかはそこから離れなくてはならないとわかっていても、ずっと安住していたくなるような安心感があった。
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この物語は果たしてハッピーエンドなのだろうか。自分にはとてもそうは思えなかった。 瑠璃子は夫の不倫と暴力から逃げるようにして、林の中のペンションにやってきた。そこで新田というチェンバロ製作者と出会う。 瑠璃子はまもなく新田に恋に落ちる。新田と初めて肉体を重ねるシーンは非常に印...
この物語は果たしてハッピーエンドなのだろうか。自分にはとてもそうは思えなかった。 瑠璃子は夫の不倫と暴力から逃げるようにして、林の中のペンションにやってきた。そこで新田というチェンバロ製作者と出会う。 瑠璃子はまもなく新田に恋に落ちる。新田と初めて肉体を重ねるシーンは非常に印象的。 時間が恐ろしくゆっくりと流れるシーンだった。その瞬間の音、色、光は細やかに描写され、感覚が精緻化されてしまう。スローモーションになった場面は1枚の絵になって強烈に記憶に残った。 そして新田もまた傷を負った人間だった。子ども時代からピアノの英才教育を受け、抑圧されながら育った。そしてある日、人前で一切楽器が弾けなくなる。 だけど、薫という女性の前では不思議とチェンバロを弾けてしまう。 それを遠巻きに見ていた瑠璃子。演奏していたのは「やさしい訴え」。新田と薫の強固な精神的な結びつきを見せつけられ、打ちひしがれる。とても表層的な、肉体的な関係で満足していた自分が惨めになる。 そのあたりから夢中になって読んだ。ただ美しいだけの小説ではなさそうだと分かってくる。 (長くなってしまうので、続きは書評ブログでどうぞ) https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E6%9C%AA%E7%86%9F%E3%81%A7%E6%AE%8B%E9%85%B7%E3%81%AA%E4%BA%BA%E3%80%85_%E3%82%84%E3%81%95%E3%81%97%E3%81%84%E8%A8%B4%E3%81%88_%E5%B0%8F%E5%B7%9D%E6%B4%8B%E5%AD%90
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静かな別荘地でチェンバロ作家と離婚寸前で別荘に家でしてきた女性の静かな交流を描く、あまり起伏もオチもないストーリーだけど、この作者らしい、静かな心落ち着く雰囲気がある。
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物語はたまに、 驚くほど適切なタイミングで わたしの前に現れる。 どこまでも美しく眼に浮かぶ情景と 慎ましやかで少し冷たく泣きたくなるようなチェンバロの音と ひとつの恋の、避けようのない終わり
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こんなにも徹頭徹尾「苦手かもこの人」と思う主人公がかつていたかしら。 という感想を主人公の女性・瑠璃子にもった。 とにかく視野が狭くて、自分のことしか考えていないのだ。 好きな人とセックスに持ち込むことをねらい、持ち込めたら それを恋敵にチラつかせてマウンティングする。 形成が...
こんなにも徹頭徹尾「苦手かもこの人」と思う主人公がかつていたかしら。 という感想を主人公の女性・瑠璃子にもった。 とにかく視野が狭くて、自分のことしか考えていないのだ。 好きな人とセックスに持ち込むことをねらい、持ち込めたら それを恋敵にチラつかせてマウンティングする。 形成が不利になってきたら飼い犬を殺すと脅す。 結構な感じにリアルにいやな女性なのである。 小川洋子さんの文章力、すごい。 ぐいぐい読んでしまった。 きれいに振られるところが素敵な小説だと思った。 人を書くって、きっとこういうことなんだろうなあ
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小川洋子さんにしては珍しい文庫本一冊分の長編。短編のように不思議不思議した世界ではなく、普通の現実の中の話しなのに、どっか異世界感があるのは文体の為せる技だろうか?
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2019.2.8 10 13/50『やさしい訴え』小川洋子 ――静かに感情の波に飲み込まれたいあなたへ 眠れない夜には小川洋子。小説独特の「艶」というものを知る、静謐で美しい恋愛小説。 京大院生が人生狂っちゃう本50冊のうちの1冊。 とてもよかった。 チェンバロという繊細なものを...
2019.2.8 10 13/50『やさしい訴え』小川洋子 ――静かに感情の波に飲み込まれたいあなたへ 眠れない夜には小川洋子。小説独特の「艶」というものを知る、静謐で美しい恋愛小説。 京大院生が人生狂っちゃう本50冊のうちの1冊。 とてもよかった。 チェンバロという繊細なものを丁寧に丁寧作っていくような作品と感じた。愛と寂しさと人生と。瑠璃子の寂しさを強く感じた。グラスホッパーの奥さんとプールに行ったときに、胸でわんわん泣くシーンの切なさ。眉間に皺を寄せながら、人生って複雑で繊細で、辛いなぁ、そんな中でのおんがくだなぁと思いながら読んだ。東京に大寒波が到来して、めちゃめちゃ寒くなる前日に読了。
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この静かで残酷な世界に浸りました。 新田さんと薫さんの完璧に閉じられた世界に入り込んだ瑠璃子さんの、感情をふたりにぶつける様は痛々しいものがありましたが、彼女を嫌いになれるはずがありませんでした。 皆、心に抱いた傷をこの森で癒していて、瑠璃子さんがただ少し早く癒されただけだと思い...
この静かで残酷な世界に浸りました。 新田さんと薫さんの完璧に閉じられた世界に入り込んだ瑠璃子さんの、感情をふたりにぶつける様は痛々しいものがありましたが、彼女を嫌いになれるはずがありませんでした。 皆、心に抱いた傷をこの森で癒していて、瑠璃子さんがただ少し早く癒されただけだと思いました。 新田さんと薫さんの日々が、これからもずっと永遠に続いていきそうだなとわたしも感じました。 お話の筋とは離れていると思いますが、カリグラフィーの先生の言葉が心に響きました。「それ、謙遜のつもり?自分の能力を低く見積もっておいた方が、あとで楽ですもんね。」「できないと思ったらできないの。できると思ったら何とかなるの。そう考えると世の中なんて単純よ。」 「やさしい訴え」を聴いてみましたが、綺麗な曲でした。チェンバロの音色は密やかで好きでした。
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