見えない人間(1) の商品レビュー
「この小説の終わりで、主人公はアパートの建物の、誰からも忘れられた地下室に隠れているが、彼のジレンマの本当の解決策は見いだしていない。ただ、彼の人間性がほかの人間(白人、黒人を問わず)には見えないのであり、自力で自らの思想や感情、さらには存在そのものをも発見しなければならない、と...
「この小説の終わりで、主人公はアパートの建物の、誰からも忘れられた地下室に隠れているが、彼のジレンマの本当の解決策は見いだしていない。ただ、彼の人間性がほかの人間(白人、黒人を問わず)には見えないのであり、自力で自らの思想や感情、さらには存在そのものをも発見しなければならない、という認識に到達しているばかりであるのだ。だが、自分自身の物語を小説の形で発表するという行為そのものが、実は彼の経験の無意味さに秩序を与え、その結果、人生に対する肯定、謳歌につながっている。主人公も語っているように、彼はやがて地上へ出て行き、もう一度、世界に「挑戦」するつもりなのだ。 この小説は、主人公が二十年ばかりの生涯に経験した苦痛の総まとめに他ならぬ――それを語ることが、そのままカタルシスになっているのだ。いかなる社会的メッセージも、体系的な信念も、知的な結論も、この小説からは生まれてこない。それを語ることに見いだした主人公の慰めがあるばかりなのだ。だが、それを物語るプロセスにおいて、主人公は彼の存在の、いや、あらゆる「存在」の喜劇的な側面に気づかざるを得ない――それゆえに、彼の語りにはユーモアさえも漂っている。(エリスンは、実におかしい小説を書き上げたと思った、とインタビューで語ったことがある。) 『見えない人間』は、それが主人公の忍耐力を賞揚しているという意味では悲劇的であり、渾沌の極みにあって、主人公が人生の豊穣さを、選択することのできる(その選択がしばしば間違っているにしても)可能性の豊富さを証言しているという意味では喜劇的であるのだ。」『アメリカの息子たち』マーゴリーズ 「人間がまず存在の無目的性を認識しさえすれば、その存在に何らかの意義ある形を与える可能性を発見することもできるのではないか――ブルースの芸術家が、意味のない苦痛や苦悩に形をあたえるのとまったく同じ方法で」『アメリカの息子たち』マーゴリーズ
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黒人文学の文脈で読んだ。50sアメリカの白人社会のなかで、黒人という記号でしか見られなくなった青年の話。けど、都市の多様性のなかに個人が埋没していくということは、日本でも東京でも起こりうることだ。人種文学って先入観なしで読まれるべき!
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