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京都学派の思想 の商品レビュー

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2012/08/12

本書の「序」で編者の大橋良介は、「京都学派」を「〈無〉の思想をベースにして哲学の諸分野を形成した、数世代にわたる哲学者グループ」と定義している。本書は、この哲学者グループが内外からどのように見られてきたのかを論じた第1部と、彼らの思想が秘めている現代的意義を明るみに出す第2部に収...

本書の「序」で編者の大橋良介は、「京都学派」を「〈無〉の思想をベースにして哲学の諸分野を形成した、数世代にわたる哲学者グループ」と定義している。本書は、この哲学者グループが内外からどのように見られてきたのかを論じた第1部と、彼らの思想が秘めている現代的意義を明るみに出す第2部に収められた、12本の論文で構成されている。 第1部では、京都学派とマルクス主義の双方の影響のもとに思想を形成した三木清や戸坂潤ら「京都学派左派」の思想家群像を描いた服部健二の論考のほか、戦中の国粋主義者による攻撃や、戦後に浮上した京都学派の思想家たちの「戦争協力」に対する批判、アメリカにおける政治的観点からなされた批判、そして近年の東アジアにおける京都学派の哲学への注目などの動向が論じられている。 第2部では、科学思想、技術思想、美学思想、教育思想、言語思想、歴史思想、宗教思想という7つの観点から、京都学派の思想の意義が論じられている。ホワイトヘッドの研究者であり、20世紀の物理学と宗教思想の両方に造詣の深い田中裕は、科学哲学的考察と宗教哲学的考察の「絶対媒介」を説いた田辺元の「科学思想」が何をめざすものだったのかを解明している。 京都学派における教育思想では木村素衛の名前がまっ先に上がるだろうが、本書で「教育思想」を担当した小林恭は、西谷啓治の「うつし」(映し/移し)という概念に、芸術と宗教における人間性の陶冶についての深い洞察を読み取ろうとしている。西洋の美学思想では、「ミメーシス」に大きな意義が与えられてきた。これと同じ事柄を、西谷は「うつし」という言葉で問題にしている。西田幾多郎は「場所」についての思索の中で、形あるものは形なきものの影であるという考えを示していた。西谷の「うつし」論は、この西田の思想を引き継ぎつつ、あらゆるものが互いに互いを映しあう「回互的連関」の中でイメージが醸成されてくるという思想へと発展させた。こうした表現へと向かう人間の自己形成を、西谷は松尾芭蕉の「松のことは松にならえ」という言葉に読み取っている。

Posted byブクログ