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熊の敷石 の商品レビュー

3.8

61件のお客様レビュー

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    15

  2. 4つ

    19

  3. 3つ

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文学というより「文芸…

文学というより「文芸」と言った方が適切かもしれません。フランス文学教授である堀江先生の著作は、その文体や選ばれた単語、助詞や句点にいたるまで、じっくり味わうことができます。巧妙に仕組まれた策略にはまるように、自在する紀行文を読んでいるがごとく、すっぽりと堀江ワールドに包み込まれて...

文学というより「文芸」と言った方が適切かもしれません。フランス文学教授である堀江先生の著作は、その文体や選ばれた単語、助詞や句点にいたるまで、じっくり味わうことができます。巧妙に仕組まれた策略にはまるように、自在する紀行文を読んでいるがごとく、すっぽりと堀江ワールドに包み込まれてしまいます。(この短編集は、フィクションなのだそうです。)堀江さんはジャック・レダの散文詩も訳されています。この短編集は確かにストリーを追って読める小説の体をなしているものの、どこか詩的な感覚を味わえる、上級で硬質な作品だ

文庫OFF

表題作は芥川賞を受賞…

表題作は芥川賞を受賞した。フランスを舞台に、美しい文章でつづられる友人と「わたし」の会話。内容は地味だが文章の密度が濃く、文学を読んだ!という印象。小説の断片がふと印象に残る。

文庫OFF

敷石ごとき無数の熊の…

敷石ごとき無数の熊の背を歩く夢、残酷な熊の寓話、モンサンミシェルの断崖から見た日没、目をバッテンに縫い付けた熊のぬいぐるみを抱く全盲の子、ユダヤ人収容所を思わせる豚の燻製場の写真、さまざまなイメージの断片のなかで、主人公は「なんとなく」築かれる人との関係について考える。正統的な文...

敷石ごとき無数の熊の背を歩く夢、残酷な熊の寓話、モンサンミシェルの断崖から見た日没、目をバッテンに縫い付けた熊のぬいぐるみを抱く全盲の子、ユダヤ人収容所を思わせる豚の燻製場の写真、さまざまなイメージの断片のなかで、主人公は「なんとなく」築かれる人との関係について考える。正統的な文学という印象。

文庫OFF

2024/04/11
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

⚫︎感想 フランスで知り合ったヤンとの交流。果たして自分はヤンの「熊の敷石」(無知な友人ほど危険なものはない)なのではないだろうか?という、主人公の思考。翻って、自分は、ウマが合うと思っている相手に対して「熊の敷石」でありはしないかとの想いを惹起させられる作品。 ⚫︎あらすじ(本概要より転載) 堀江敏幸の文章は、いろっぽいのだ。――川上弘美(「解説」より) 芥川賞受賞作 「なんとなく」という感覚に支えられた違和と理解。そんな人とのつながりはあるのだろうか。 フランス滞在中、旧友ヤンを田舎に訪ねた私が出会ったのは、友につらなるユダヤ人の歴史と経験、そして家主の女性と目の見えない幼い息子だった。 芥川賞受賞の表題作をはじめ、人生の真実を静かに照らしだす作品集。 ヤンはそこでふいに立ち上がってレンジのほうへいき、やかんを火にかけ、そのままなにも言わず2階にあがって、大きな写真立てを持って下りてきた。私にそれを差し出し、もういちどレンジに戻って火を調節しながら、珈琲か紅茶かと訊いてくる。(「熊の敷石」より)

Posted byブクログ

2024/01/19

決して読みやすくはない。 けれど独特な空気が漂う本。不思議な感触。 その不思議な感触の由来は、舞台のフランスという土地や人に染み付く空気を、日本との文化的差違を踏まえてぼんやりと描くからなのかもしれない。日本語にすっかり置き換えてしまうのではなく、距離のあるものとして日本語で描...

決して読みやすくはない。 けれど独特な空気が漂う本。不思議な感触。 その不思議な感触の由来は、舞台のフランスという土地や人に染み付く空気を、日本との文化的差違を踏まえてぼんやりと描くからなのかもしれない。日本語にすっかり置き換えてしまうのではなく、距離のあるものとして日本語で描く。 人間と土地の根底に流れる根本的な潮流の違いを描きたかったのかなと、文中に出てくるユダヤ人に関する話や寓話などから感じた。

Posted byブクログ

2023/11/19

熊が怖い。敷石と見紛われた夢のなかの熊、敷石で老人の頭をかち割った寓話のなかの熊、盲目の子どもを投影されたぬいぐるみの熊。だが根本においてわれわれをどことなく不安にさせるのは、なにかが別のなにかを呼び起こすときの齟齬だと思う。それは連想であることもあれば、置き換えであることもある...

熊が怖い。敷石と見紛われた夢のなかの熊、敷石で老人の頭をかち割った寓話のなかの熊、盲目の子どもを投影されたぬいぐるみの熊。だが根本においてわれわれをどことなく不安にさせるのは、なにかが別のなにかを呼び起こすときの齟齬だと思う。それは連想であることもあれば、置き換えであることもある。後者はたとえば一方の者から発された言葉がもう一方の者に受けとられるときのわずかな取り違えであり、さらにそれに翻訳や要約や比喩といった意図的な置換を加えたときのずれである。そうしてその間に潜む歴史や物語の思わぬ出現がひとを戸惑わせる。語り手は自らを寓話の熊に重ねあわせ、齟齬の端緒となる発話を誘発する存在なのではないかと考える。あらゆる単語の羅列された辞書から引っ張り出した言葉が相手になんらかの契機をあたえるように、無縁の風景たちが並列された写真群からなにげなく一枚を選びとる行為すらもが、思わぬ想起を導く。彼は今度は盲目の子と結びつけられたぬいぐるみの熊を思い、そこにそのような不自由からの解放を予感する。しかし寓話の熊が敷石を投げたことが決して悪意に導かれたわけではないままならなさを帯びているように、語り手たちの誘発もなにかの意図をもってのものではなく、一方で盲目の子とそのぬいぐるみの熊はそこに置き換えの関係をかかえており、まったくだれもかれもやるせないじゃないかという気にさせられる。

Posted byブクログ

2023/11/01

表題作は、芥川賞受賞作。 という先入観はともかく、また堀江さんの世界にどっぷり浸かったな、という感じ。 表題作以外に「砂売りが通る」「城址にて」の2編が収まっている。いずれも、フランスと日本を往還している著者を想起させる主人公で、「おぱらぱん」の続きを読んでいるようでもあった。 ...

表題作は、芥川賞受賞作。 という先入観はともかく、また堀江さんの世界にどっぷり浸かったな、という感じ。 表題作以外に「砂売りが通る」「城址にて」の2編が収まっている。いずれも、フランスと日本を往還している著者を想起させる主人公で、「おぱらぱん」の続きを読んでいるようでもあった。 いずれの物語も、現在から、ぐっと過去に遡り、大きな事件というよりは小さな出来事の連なりがあって、また現在に収斂していく。語られる現在はいずれも不穏で、かと言って完全な不幸でもなく、少し欠けたところを抱えながらも毎日過ごしている、つまり、誰もが過ごしている人生そのもののようなんだけど、なんというか非常に映画的で美しい。フランスの風景がそうさせるのか、日本人とは少し違う、濃密な心のやり取りのせいなのか。 ストーリーを追うというよりも、情景を味わい、そこから想起される、自分の中にある感情を揺さぶられて、心地よくせつなくなるような本だった。

Posted byブクログ

2022/04/05

2022/2/1アマゾン掲載mokomoko 黒い湿った絨毯のような熊の背中を踏んでいた夢を見ていたという奇妙な書き出しではじまり、主人公が友人ヤンの住んでいるパリで経験した事が書かれています。どのエピソードも心を打たれるものがありますが、私が一番好きなところは熊のぬいぐるみ事...

2022/2/1アマゾン掲載mokomoko 黒い湿った絨毯のような熊の背中を踏んでいた夢を見ていたという奇妙な書き出しではじまり、主人公が友人ヤンの住んでいるパリで経験した事が書かれています。どのエピソードも心を打たれるものがありますが、私が一番好きなところは熊のぬいぐるみ事です。ヤンの大家さんのカトリーヌと彼女の息子ダヴィッドのことをヤンの話から知ります。「カトリーヌはダヴィッドがお腹にいる時に大きな黒いボタンの目をつけた熊のぬいぐるみを作った。赤ん坊が生まれて両目がないとわかったとき、カトリーヌはボタンをはずして、ばってんで閉じた」「鼻も口もある動物の顔の中で、目だけが糸を交差させたさりげない措置で封印されていた。その目のおかげで、熊はダヴィッドを庇護しつつ同時に庇護されているような両義性を獲得していたのだった」 悲しいとか可哀想というだけでは表せない何かに胸を衝かれました

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2021/09/14

淡々としているけど何処かシビアで、何か起こりそうな不穏さはずっとあるけれど重大な事は起こらない…不思議な空気です。 でも全く退屈はしないし、静かな映画を観ている様です。 シーンの描写が視覚的。フランスの情景も良いです。食べものも美味しそう。 表題作の「熊の敷石」という言い回し、「...

淡々としているけど何処かシビアで、何か起こりそうな不穏さはずっとあるけれど重大な事は起こらない…不思議な空気です。 でも全く退屈はしないし、静かな映画を観ている様です。 シーンの描写が視覚的。フランスの情景も良いです。食べものも美味しそう。 表題作の「熊の敷石」という言い回し、「要らぬお節介」という意味みたいだけれど教訓となってるお話が衝撃的でした。初めて知りました。 大家さんの眼球の無い息子と、目を糸で縫い止められている熊のぬいぐるみも印象的です。でもまさか歯痛で終わるとは。。 2つ目のお話は砂の城大会がたいへん気になります。 3つ目はそんなに。「ぺなぺな」という表現は好き。

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2021/08/29

堀江敏幸さんの本の中でも(なぜか)これまで読めていなかった芥川賞受賞作。 ずっと少し不穏。大きな事件は何も起きないけど、見えるか見えないかくらいのさざ波が立っているような感覚になる。というか割合センシティブなシーンもあるけど、劇的には描かない。 堀江作品の、言葉数が多い割に淡...

堀江敏幸さんの本の中でも(なぜか)これまで読めていなかった芥川賞受賞作。 ずっと少し不穏。大きな事件は何も起きないけど、見えるか見えないかくらいのさざ波が立っているような感覚になる。というか割合センシティブなシーンもあるけど、劇的には描かない。 堀江作品の、言葉数が多い割に淡々とした語り口に触れると、人生の出来事って案外そう劇的じゃないものよね、と妙に心強く感じられる。から好きなのかもしれない。 フランスの歴史や慣習に馴染みが薄く、主人公が置かれた環境にもあまり親近感は湧かないが、やや回りくどい(キザっぽくすら感じる)文章から伝わってくる風景や食べ物の触感には不思議な心地よさがあった。 2つ目の短編はなんかじとっとした感じがあって、あまり好みではなかった。 3つ目の短編はあまり記憶にないが軽やかで読みよかった気がする。

Posted byブクログ