最澄再考 の商品レビュー
最澄の戒律にかんする思想と、比叡山における山岳修行のありかたとのつながりについて、思想史的な立場から検討をおこなっている本です。 本書では、梵網戒についての最澄の議論と『山家学生式』の記述についてくわしい検討がなされており、最澄にとって大乗戒壇がどのようなものであったのかという...
最澄の戒律にかんする思想と、比叡山における山岳修行のありかたとのつながりについて、思想史的な立場から検討をおこなっている本です。 本書では、梵網戒についての最澄の議論と『山家学生式』の記述についてくわしい検討がなされており、最澄にとって大乗戒壇がどのようなものであったのかということが明らかにされています。著者によれば、声聞具足戒を棄捨することをえらんだ最澄の考えの背景にあったのは、『法華経』の一乗の理想にもとづく「速成」的方法としての「円頓止観」であり、声聞・縁覚の教説によってこの「速成」的方法が妨げられてはならないと考えていたためでした。 また最澄は、こうした「速成」的方法が、梵網戒とともに『山家学生式』に具体的に記された山岳修行を通して達成されると考えていました。本書は、山岳修行における出家者のための立法を「籠山戒」と呼び、そこに自然の根源的な生成力を媒介するような位置に立つことを可能にする意義を認めていたということが論じられています。 「存在の生成的威力」についての議論は、佐藤正英による日本思想史のとらえかたに依拠しており、最澄の思想を日本思想史のうちに位置づけることが本書の大きなもくろみとなっています。このことについては、わたくし自身はどのように評価すればよいのか、いまだ判断ができずにいるのですが、一つの興味深い試みではあるように思います。
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