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獅子の旗のもとに の商品レビュー

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2011/05/27
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※このレビューにはネタバレを含みます

確認先:目黒区立八雲中央図書館 松岡なつきの本領発揮の作品。エドワード・サイードならばこれでも「オリエンタリズムだ!」と鼻息荒く批判しそうだが(なぜだかは読めばわかる)、近年巷にあふれて評者をウンザリさせている自称「あらぶもの」よりはかなりマシであることは疑いようのない事実である(このように書くと現在のBL小説家の筆力が衰えているということを暗に認めていることにもなろうが)。 もともとは、1993年に白夜書房から出された小説の復刊。つまり、ボーイズラブという言葉がまだ一般的ではなかった時代の作品であり、一つの時代の証言も行っている。 BLにおいて中東地域がどうしてもある特定のイメージのもとに繰り返し再生産されてしまうというどうしようもない現実の前には、評者の声など届きようもないというのは百も承知である。一方で、松岡にできて、その後の作家たちができなった境界線はいったいどこにあるのだろうか、という問いもまた生まれてくる。評者は、完結している自分の世界をただただ他人に見せびらかすだけか否かがその境界線ではないかと考える。松岡は後者であり、(今ではすっかり見ることのなくなった)書き手としてのメリハリを心地よく見せている。 本書最大の誤読注意ポイントとして、中東地域を見るヨーロッパのまなざし(残念なことに、現在の自称「あらぶもの」作品群はこのまなざしからアラビア海沿岸諸国を眺めているのがあからさまに読み取れる)を皮肉たっぷりに取り入れることで見事な意趣返しをしている点を上げておこう。表層だけを読むとあらすじのような展開になる。また、この作品における受け/攻め/受けが奴隷として扱われるときの「主人」(よーするに攻めにとっての恋敵)の関係が典型的な「欲望の三角形」になっていることにも。しかし、松岡の視点はさらに広く、(宗教に立脚した)排外主義や無理解なオリエンタリズムの発露が二人の関係を複雑かつ重層的なものにしている。このあたりはブローデルの『地中海』(藤原書店)との共鳴を思わせる。 現在のBLにみられる濡れ場至上主義(よーするにセックスシーンの紙幅が多めに割り振られるこの現状)がBLのマーケットに過失責任があるという意見もないわけではない。しかし、本書を読んだ上で改めてこのような意見と向き合うと、そこには読み手としての責任を回避するための苦しい言い訳ないしは「純潔主義」を声高に唱えるものたちの「木を見て森を見ず」的な言い回しでしかなく、実際に古典や過去の作品に目を向けていない自分から逃れるための責任回避でしかない(新しい作品に飛びつくだけ、という一面もあろうが)。しかしそれだけでは、行き着くところ「均整化」された味気ないものになるのは火を見るよりも明らかである。そして現にBLはその道を歩んでいる。であるからこそ、本書のような(文学として)硬派なBLを読み返す時間もまた必要なのではないだろうか。

Posted byブクログ