街場の現代思想 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
高校3年の政治経済のテスト問題で、私はこの本の引用を目の当たりにする。それは、「第七章 街場の常識 第7回 フリーターについて」の文章だった。今でもテスト用紙は実家の倉庫に保管してあるはずだ。当時高校生だった私は、試験終了後ゾクゾクし、この著者の本を読んでみたいと思った。後日職員室で、N田先生から手渡しでこの本に触れた。これが内田先生との最初の出会いである。当時の私がなぜこの(続きの)文章を読んでみたいと思ったかはわからない。しかし、高校三年生という心境とN田先生が最後の問(ボーナス問題)としてではあるが、テスト問題に採用した教育的意味を考えても当時の私が“わたし”のことについて書かれていると感じるには十分な内容であると思う。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー フリーターのいったいどこが問題ですか? いままでなら正社員がやっていた仕事も、アルバイトに任せる、といったことが起きています。逆に言えば、昔なら正社員になれた人が今の時代ではアルバイトの機会しか与えられていないのが実情です。それらの人はアルバイトとしてもそれなりの結果を出しますから、企業は「お、アルバイトでもけっこう働いてくれるやん」ということになり、いつでもクビにできるようなスタッフを多く抱えるかたちで経営していくことになっています。 でも、それならなぜ、フリーターの存在がメディアで批判されるのでしょうか? 確かに、フリーターの多くの人が任されることになる仕事は、代替可能な種類のものがほとんどですし、そのような仕事をつうじてスキルやキャリアは身につけられないかも知れません。しかし、フリーターを批判する人は、世の中からフリーターが0人になったときの世の中を描けているのでしょうか?その世の中では、人びとはどんな仕事をしているのでしょうか? 僕は大いに疑問です。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー この文章は文庫版からの引用で、当時の試験問題からの引用ではない。問いは、「この文章を読んで思うところを書きなさい」といった類のものだったように思う。 試験問題を通してこの文章に出会い、本を読んで今本当に幸運だったと思う。それは、フリーターが問題だということがわかったという知識としての喜びではない。卒業後、様々な問題に対して“どのようなふるまい方をすればいいのか・いいことがあるか”ということを教わったからではないかと今やっとわかった気がするからだ。それは、とりもなおさず今私が内田先生の著書を読む時の態度である。 この本に書かれている内容は、今もなお世の中に渦巻いている問題ばかりである。言葉を換えれば、非常に深刻な問題ばかりだ。しかし、その非常に深刻な問題に向かって取り組んでみようと私が思うのは、内田先生が非常に丁寧に言葉を尽くして話をしてくれるからだと思う。その言葉で私は、口を出す余地があるのではないかと思うし、もしかしたら解決できる問題なのではないのかと頭を捻る。私にとって、本を読むということは、「○○は、○○」であるというような紋切り型の知識を得るためだけではないと教えてくれたことが今の私への大切な“贈り物”だ。だから、この「贈り物」をここまで読んで下さったあなたにそっとパスしたいと思います。 最後に、高校卒業から時が経った今、読書を通して知性のストリームに身を投じ、頭を捻らせよい方向を自らみいだしたいと思ってこれからも内田先生の授業(著書)を黙って受け続けたいと改めて思う。
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<負け犬も勝ち犬も、しょせん犬> <死への想像力が生を輝かせる> 高校の現代文の最初の授業の題材は鈴木孝夫『ものとことば』であった。その中の「ことばがものをあらしめる」という逆説的な主張を学んで、それまでその手の文章にあまり触れてこなかった自分は目からウロコが落ちる様な感覚を持...
<負け犬も勝ち犬も、しょせん犬> <死への想像力が生を輝かせる> 高校の現代文の最初の授業の題材は鈴木孝夫『ものとことば』であった。その中の「ことばがものをあらしめる」という逆説的な主張を学んで、それまでその手の文章にあまり触れてこなかった自分は目からウロコが落ちる様な感覚を持ったのを覚えている。同様な人は少なからずいると思う。本書の著者である内田樹(たつる)の文章を読んでいるとその感覚を思い出す。逆説的に、鋭くものごとの本質を突いてくる。痛快。この思想家に、もう2年ぐらい早く出会っていればなあ、と思う。三島由紀夫と並んで今マイブームなもの書き。特に結婚について書かれた件は秀逸。☆のとこだけでも読んでみてください。 ◇教養とは自分の無知についての知識 ◇文化資本格差―「家庭」で習得した文化資本と、「学校」で習得した文化資本の差は「ゆとり」、「気後れ」 ◇フランスは歴然とした階層社会でありながら、文化的情報発信国でもある。カミュ、サルトルの実存主義、構造人類学のレヴィ・ストロース、系譜学のフーコー、デリダの脱構築、ラカンの精神分析、レヴィナスの他者論など。 ◇一億総プチ文化資本家戦略 ◇ニーチェ「距離のパトス」「超人」思想 ◇文化資本へのアクセスは、「文化を資本として利用しようとする発想そのもの」を懐疑させる ◇勝とうが負けようが、年齢だとか既婚未婚だとか子どもがいるいないで人間の価値を判定できると思っている人は、「人間」ではなく「犬」だ ☆育児とは、はっきり言って「エンドレスの不快」である ◇負け犬は、ランティエ(文化の担い手) ◇「敬」=攻撃回避 ◇ほんとうにむずかしい問題というのは「答えが出せない問題」じゃなくて「答えがたくさんあって正解がない問題、あるいは、どれもが正解であるような問題」 ◇レヴィ=ストロースによる人間の定義―「ことば」「女」「財貨サービス」を交換するのが人間。それぞれ、コミュニケーション、親族組織、経済活動 ◇「人間が貨幣を作り出した」というのは不正確。貨幣以前に「人間」は存在しなかった ☆完全な能力主義社会というのは、…人間の「うぬぼれ」を完膚なきまでに破壊してしまう…構成員のほとんどが「生きる気力」を失い、組織の士気が致命的に下がってしまう社会 ◇会社にいるのは多様性。イエスマンは要らない ◇決断をしなければならないというのは既に選択肢が限定された状況に追い込まれているということを意味する ◇「革命党組織は、それ自体が将来の革命的社会の萌芽的形態でなければならない」 ☆「人口が減って、ものが余る」という事態を想定した経済学は存在しない ☆恋愛に必要なのは「快楽を享受し、快楽を増進させる能力」。結婚に必要なのは「不快に耐え、不快を減じる能力」 ☆結婚が約束するのは「不快な隣人」、すなわち「他者」と共生する能力。おそらくこれこそが根源的な意味において人間を人間たらしめている条件 ◇ユダヤ人の必殺技―「問いに応じるに問いを以てする」 ◇人が離婚するのは、離婚を前提として結婚生活を営んでいるから ◇「私にはこの人がよく分からない(でも好き)」という涼しい諦念のうちに踏みとどまることのできる人だけが愛の主体になりうる ☆高等教育においていちばんたいせつなのは、学生が「すでに知っている知識」を量的に拡大することではなく、学生に「そんなものがこの世に存在することさえ知らなかったような学術的知見やスキル」に不意に出くわす場を保障すること ☆想像力とは「現実には見たことも聞いたこともない」ものを思い描く力 ◇天才は余事象で考える。『アトム』のテーゼは「人間性とは何か」 ◇人間を人間たらしめているのは「有責感の(無根拠な)過剰」―レヴィナス『全体性と無限』とほぼ同結論 ◇ラカン「人間は前未来系で自分の過去を回想する」 ☆人生を輝かせるのは、尽きるところ、その(死に対する)想像力だけなのである。
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「私が若い方々に勧奨することは、とりあえず一つだけである。それは、自分がどういうふうに老い、どういうふうに病み衰え、どんな場所で、どんな死にざまを示すことになるのか、それについて繰り返し想像することである。困難な想像ではあると思うけれど、君たちの今この場での人生を輝かすのは、尽き...
「私が若い方々に勧奨することは、とりあえず一つだけである。それは、自分がどういうふうに老い、どういうふうに病み衰え、どんな場所で、どんな死にざまを示すことになるのか、それについて繰り返し想像することである。困難な想像ではあると思うけれど、君たちの今この場での人生を輝かすのは、尽きるところ、その想像力だけなのである。」 最後の一文に希望を見出すことができました。もうちょっと今後の未来についてまともに向き合おういう気持になれました。なぜだかはわからないけど。 (2006年06月05日)
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【読書メモ】 ●他者と共生する能力が人間を人間足らしめている ●貨幣以前に人間は存在しない ●何かの対価でなく「面白そうだったから」とか「暇だったから」とか「頼まれたから」とか「人生意気に感じたから」というようなどうでもいい理由で仕事をする人間が「質のよい仕事をする」 ●...
【読書メモ】 ●他者と共生する能力が人間を人間足らしめている ●貨幣以前に人間は存在しない ●何かの対価でなく「面白そうだったから」とか「暇だったから」とか「頼まれたから」とか「人生意気に感じたから」というようなどうでもいい理由で仕事をする人間が「質のよい仕事をする」 ●決断はできるだけしないほうがよい。選択肢が限定された状況に追い込まれないこと、普段からリスクを回避することが大切 ●質問に対しては「問いかける人間が一番聞きたがる答えを告げること」が秘訣 ●目的地にたどりつくまでの道順を繰り返し想像し、その道を当たり前のように歩んでいく自分をはっきり想像できる人間は、かなり高い確率でその目的にたどり着くことができる。それが夢を実現するということ。 ●想像力とは「現実には見たことも聞いたこともないもの」を思い描く力。自分が「はん放な空想」だと思っているものの貧しさと限界を気づかうこと ●共同的に生きることができる人間というのは、自分のことを隅々まで理解し共感してくれる人間ではなく、「あなたのことはよくわからないけど、私はあなたの権利を守る」と言ってくれる人。 ●今の時代がしんどいのは、若い人たちに「未来がない」から。「死んだあとの自分」というものを自分自身の現在の意味を知るための想像上の観測点として思い描く習慣を失ってしまったから。自分がどういうふうに老い、どういうふうに病み衰え、どんな場所で、どんな死にざまを示すことになるのか、それについて繰り返し想像する。
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日ごろ何となく感じていることを、うまく説明してくれて、どれもとても腑に落ちる話。 こういう風に考えられれば、何で学歴社会なのかとか、どうして敬語を使わなくちゃいけないのかとか、ただ不条理に憤るだけでなく、割り切れる気がする。 一番印象的なのは、想像力と倫理についての話。 普段あ...
日ごろ何となく感じていることを、うまく説明してくれて、どれもとても腑に落ちる話。 こういう風に考えられれば、何で学歴社会なのかとか、どうして敬語を使わなくちゃいけないのかとか、ただ不条理に憤るだけでなく、割り切れる気がする。 一番印象的なのは、想像力と倫理についての話。 普段あんまり聞かないような論理もあって面白い。「年をとれば分かってくる」とか、「結婚や子育ては不快を味わうためにするんだ」とか(笑)
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2011.03.17. 前にも読んでいた。わかりやすい。内田さんの人生相談を読んでみたいな、新聞に載ってるようなやつを。 2009.02.23. おーもーしーろーい!読んでる間中、案を叩いて得心していました。内田センセイは、今ブームなんですね。大きな本屋さんに行ったら、コーナー...
2011.03.17. 前にも読んでいた。わかりやすい。内田さんの人生相談を読んでみたいな、新聞に載ってるようなやつを。 2009.02.23. おーもーしーろーい!読んでる間中、案を叩いて得心していました。内田センセイは、今ブームなんですね。大きな本屋さんに行ったら、コーナーが設けられていました。みんな、読むんだ!★4つ
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若干の揶揄がこめられているとしても、ここまで「先生」と呼ばれることが自然な学者はいない。若者の悩みに応える内容のこの本はとくにそうだけど、そんな内田樹「先生」はつねに、少なからず啓発性を帯びるしゃべり方をする。わたしは本当のことを言っていますよ−という言葉のつかい方を徹底的に避け...
若干の揶揄がこめられているとしても、ここまで「先生」と呼ばれることが自然な学者はいない。若者の悩みに応える内容のこの本はとくにそうだけど、そんな内田樹「先生」はつねに、少なからず啓発性を帯びるしゃべり方をする。わたしは本当のことを言っていますよ−という言葉のつかい方を徹底的に避けることで、結果的に忌避したそれの効果を達成している。抽象的な(学問的な)言葉が経験的な言葉よりも優位に立ってないからだ。社会に出て営業をやったこともある、離婚をしたこともある、子供は男手ひとつで育てている、フェミニズムとか転職問題をしゃべるときにこういうことを平気で言ってのけるから、お手上げとなる。もちろんこれはエッセイという媒体のみで可能な文体。 しかしそう考えてみると、身体的な次元で語ることが可能なエッセイというのは、「おしつけがましさ」や「自己啓発」を否定する「おしつけがましさ」や「自己啓発」をおこなう上で一番効率が良いのかもしれない。読者としてこの内田的「おしつけがましさ」や「自己啓発」をどう感じるのかは好き嫌いありそうだけれど、僕自身はこれすらも却下したら、もう、それは無限後退のニヒリズム以外の何者でもないと思うので、むやみに拒絶することだけは避けたい。これを受け入れるのか、これもちがうと言い張るのか。考え続けるだけである。でも、このように考え続けることが内田「先生」からの啓発ではないかという疑問を持ってしまったらぐるぐるしてしまうの。
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格差について漠然と考えていたことをきちんと言葉にしてもらった気がしました。 所属していた合気道サークルの内先輩です。ブログもかなり面白い。
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この方の本もおもしろい。考え方が斬新。文化資本の話では、日本はこれからどんどん文化資本に格差がついていき、どうにも埋められなくなってフランスの貴族社会にようになってしまうと警鐘を鳴らしています。文化資本とは、収入のように個人の努力でどうにかなるものではなく、育った家柄で全てが決ま...
この方の本もおもしろい。考え方が斬新。文化資本の話では、日本はこれからどんどん文化資本に格差がついていき、どうにも埋められなくなってフランスの貴族社会にようになってしまうと警鐘を鳴らしています。文化資本とは、収入のように個人の努力でどうにかなるものではなく、育った家柄で全てが決まってしまうもの。さらに大人になって自分の文化資本の無さに気が付いて本を乱読したり、美術館に足を運んだり、クラシックに手を出してみたところで、その行為自体が文化を陳腐なものにしてしまうのだと言います。でも、同時にそのような人たちが新たな文化を育んでいくとも。その他離婚、学歴、転職、フリーターなど、現代風のトピックが多くかなり読みやすいです。
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「死んだあとの私」っていう視点は持っているつもりでいるけれど、「死への覚悟」というのをどうやって持っていけばいいものか。とりあえず内田先生の本はどれも文章がわかりやすくてよい。
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