建築ツウ的普請道楽のススメ の商品レビュー
まずは「旦那」とはなんぞや?そもそもサンスクリット語の「ダーナ」に由来する仏教用語で、云々。「普請」というのは、家を建てたり改築したりすることの意である。それを道楽でやるにはそれなりの財がないと始まらないのは当然としても、財よりもむしろ意気込みということらしい。 ここで紹介され...
まずは「旦那」とはなんぞや?そもそもサンスクリット語の「ダーナ」に由来する仏教用語で、云々。「普請」というのは、家を建てたり改築したりすることの意である。それを道楽でやるにはそれなりの財がないと始まらないのは当然としても、財よりもむしろ意気込みということらしい。 ここで紹介される「ニュー旦那」たる施主は、三者三様かなりのつわものである。常軌を逸脱した家を建てるには、それいっぱしの人物であらねばならぬ、というのが世の常ということだろうか。凡人は身の程に合った住まいを知れということか。さらに普請道楽ともなれば、ひとかどの旦那衆であらねど務まらないということだろうか。 ニュー旦那の普請する家は、パンピー向け建築雑誌やインテリア雑誌を飾るような、「スタイリッシュな空間を演出する快適で居心地のいい住まい」というものではけっしてない。そこは、施主の生き様が凝縮した空間となって顕現した場なのである。 まずは、世界的にも活躍する40代独身の医師の邸宅「雙徽第」。お茶や舞踊もやれば、日本文化への造詣もただものならぬ。昨今の建築家にしろ大工にしろ、道具の名前も知らぬ浅はかな者ばかり増えている、と一喝する。この旦那、素人ながら、お茶も舞もその空間における自分の位置を確認する作業だと言わしめる。自宅には茶室と舞台を設け、手摺りにはその形を練りに練った卍崩しを用いるなど、細部にまでも凝りようだ。そのくせ寝室はつくらず、キッチンもわずか一坪。それこそが求めるものだと。 この住宅は、渡辺篤史の「建もの探訪」でも取り上げられて、施主ともども異彩を放っていた。 そして最後に、“Share Sprit”のデザイナー片野光氏が紹介され、みなぎるエネルギーに溢れた破天荒な生き様を語っている。彼が普請したのは住宅ではなく、彼のブランドのための店舗である。意匠を凝らした建築やそこに所狭しと置かれた古今東西の珍品類にしろ、それらは彼の生き方のほんの表象の表現に過ぎず、その内なるスピリットの前においては、設計者である著者にして建築などどうでもいいと思わせるほどの生き様だったのである。 二人めも十分すごい人なのだが、最初と最後の人の個性に比べると霞んでしまったので、長くなることもあって、省略。 とまあ、これを読んだ後では、思わず文体も饒舌に弾んできた次第だ。 建築で人生を語るには、あるいは、人生を建築にがっぷりと取り組んで表現したい輩にとっては、必読の書となろう。
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