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薩摩拵 の商品レビュー

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2011/02/27

 区役所での待ち時間中に隣の区立図書館で見つけてしまいました。  書名の「薩摩」と著者の苗字「調所」でピンと来てしまった。というのは、中公新書『幕末の薩摩 -悲劇の改革者、調所笑左衛門-』を学生時代に読んでいた。以来「調所」と書いて「ずしょ」と読ませるこの珍しい苗字のアナウン...

 区役所での待ち時間中に隣の区立図書館で見つけてしまいました。  書名の「薩摩」と著者の苗字「調所」でピンと来てしまった。というのは、中公新書『幕末の薩摩 -悲劇の改革者、調所笑左衛門-』を学生時代に読んでいた。以来「調所」と書いて「ずしょ」と読ませるこの珍しい苗字のアナウンサーなんかが出てくると、いつも、あの笑左衛門の子孫かなあ、鹿児島出身とかかなあ、といつも思う。本書の著者は紛れもなく直系の末裔の方だった。  「拵(こしらえ)」とは、日本刀の柄や鞘などの装飾された外装のこと。薩摩武士道の精神を造形として具現化したとも言える薩摩拵。本書はその第一級の美術図鑑・解説書であろう。  しかし、この本の凄いところはそれだけに留まらない。多くは語りません。ただ、「刊行をお祝いして」と題してそれぞれ祝辞を寄せている三人の名前のみ紹介しましょう。  島津修久  西郷隆文  大久保利泰  わかりますね。わかる人には。  調所笑左衛門は悲劇の家老だ。なおかつ誤解され更には忘れ去られている。維新第一の功たる薩摩藩の財政基盤を築いた功労者でありながら、西郷・大久保ら藩内の改革派からは敵視され、最後は無実の罪を一身に背負い自害した。  昨今再評価と名誉回復がなされた笑左衛門だが、本書の前書きでは、かつて「肩身の狭い」思いを強いられた子孫の苦悩が記されていて、事情を知る者にはズシリと胸に迫るものがある。  実に私事にわたって恐縮ですが、著者略歴を見てさらに驚いた。著者の調所一郎氏は私と大学で同学年同学部だ。こういう変わった苗字の級友はいなかったからクラスだけは違ったらしい。  そもそも『幕末の薩摩』を読んだのは、その頃の友人の課題論文を代筆してやるための参考文献としてだった。論文のテーマは「奄美大島の農業と漁業」、そいつは文化人類学専攻だった。奄美の黒糖栽培の歴史的背景として、薩摩の奄美経営について調べたのだった。  今日、そいつと言葉を交わした。  「お前、調所笑左衛門って誰だか覚えてる?」  「誰?それ」  調所笑左衛門。ほんとうに悲劇の人である。    そして、ご先祖のいわれなき汚名を名実ともに雪ぐこととなったこの労作に、こころから「刊行のお祝い」を申し上げたい。申し上げている私は何者でもありはしませんが、名も無き同窓生として。

Posted byブクログ