法曹の比較法社会学 の商品レビュー
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法曹の人事制度や司法制度を、ドイツ・フランス・イギリス・台湾・韓国・ポーランド・ロシア・中国・日本の実態をそれぞれ外観している。 総じて言えることは、欧州とアメリカはそれぞれ、個々の裁判官が独立しており、本人の意思に反した異動や転勤があり得ない。そもそもドイツやアメリカは連邦制であるから、州の裁判所は州民の選挙で裁判官が選ばれ、それを州知事が任命する形を取っており、そもそも最高裁判所が人事権を掌握するはずがないということである。日本も道州制の是非が問われているが、司法府の扱いはどうなるのであろうか。 ロシアや中国、ポーランドは社会主義国家であった歴史があり、中国はまだ一党独裁が続いている。総じてこれらの国々は、司法部門の権威が弱く、中国では司法教育が進んでいなかった。文革前後は弁護士自体がいなくなったり、政治色が拭い去れない。ポーランドが一番自由化が進んでいる。 台湾、韓国、日本はまだ官僚制の元での司法府のあり方が残っている。日本は戦前の反省から司法部門を行政府から切り離しはしたものの、最高裁長官が人事権を掌握し、それを内閣総理大臣が指名し任命している。司法制度の全国への均一性を目的としているが、どのみち有形無形で司法府への干渉は行えるし、何より行政府や立法府への違憲判決が少ないことがそれを物語っている。韓国・台湾も、本人の意思に関わりなく転任を命じることができるし、日本と大差がない。 司法府への民意を伝える手段として、日本では最高裁判事の国民審査が導入されてはいるが、有効に機能しているとはいえない。日本の判事の数が異常に少ないのも、中央の意図を的確に伝える為に、少なめにしてあるとも言えるだろう。 以上のように、各国の司法制度や法曹のあり方を調べる良著であるように思えた。裁判所は法律と同時に民主主義を担保するモノであるから、よく市民は自覚する必要があるだろう。
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