地方交付税の経済学 の商品レビュー
経済学的な理論と実証分析に基づき、地方交付税制度の問題点を指摘し、あるべき制度改革案を提示している。 本書の主張は、地方交付税制度は、地方自治体の費用最小化行動へのインセンティブを阻害しており、事後的救済を予測することによるソフトな予算制約により、事前的モラル・ハザードが生じて放...
経済学的な理論と実証分析に基づき、地方交付税制度の問題点を指摘し、あるべき制度改革案を提示している。 本書の主張は、地方交付税制度は、地方自治体の費用最小化行動へのインセンティブを阻害しており、事後的救済を予測することによるソフトな予算制約により、事前的モラル・ハザードが生じて放漫財政につなっているというものである。その上で、制度改革の方向性として、1)地方交付税と国庫支出金を統合したうえで、財源保障機能と財政調整機能を「ブロック補助金」と「水平的財政移転」に分ける、2)地方の財源を「基幹財源」と「独自財源」に分け、前者については税率選択、徴税を集権化したうえ、その一部は地域間財政調整機能を担う「水平的財政移転」の原資とする、3)独自財源は「居住地主義課税」を原則として、税率選択・徴税を地方自治体に委ねるということを提言している。 本書の「実証分析」には有力な批判もあるとされ、経済学に疎い自分にはその当否を判断することは難しいが、大まかな筋としては、ある程度納得のいくものだった。インセンティブに着目して、地方自治体等の主体を社会的に望ましい方向に誘導するような制度(ゲームの「ルール」)を構築すべきという問題意識には共感するし、このままでは地方交付税制度は持続不可能という見通しもそのとおりだと思う。一方で、地方交付税制度により地方自治体にモラル・ハザードが生じているという論については、そういう面もあるかなとは思いつつも、当事者の一員として違和感は禁じ得なかった。 本書は、地方交付税制度の仕組みを理解するうえでも有益だった。制度の建前(地方の自治(財政需要)を助ける財源配分:ミクロ的行政需要積上げ→マクロ的総額決定)、実際(地方を従属させる中央主導の財源配分:マクロ的総額決定→ミクロ的財源配分)、実態(事前的歪みを後追いする財源配分:ミクロ的戦略行動→マクロ的総額決定)を比較したうえでの制度解説は非常にわかりやすかった。
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