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体験的本多勝一論 の商品レビュー

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2024/01/07

★最後がサイコ★図書館でたまたま目にして手に取る。今の人に本多勝一はどれだけ知られているのだろう。自分が読んだのが1990年代後半で、その時点で朝日新聞を定年退職していたのだから、随分と遅い接触だった。初期の探検ものは時代を感じさせる意味でも興味深く、「日本語の作文技術」は今も気...

★最後がサイコ★図書館でたまたま目にして手に取る。今の人に本多勝一はどれだけ知られているのだろう。自分が読んだのが1990年代後半で、その時点で朝日新聞を定年退職していたのだから、随分と遅い接触だった。初期の探検ものは時代を感じさせる意味でも興味深く、「日本語の作文技術」は今も気にしている内容が多い。ただ、よく言われるようにベトナムや中国にかかわる政治色の強い文章になると、なんとも後味が悪くなるし、悪口も品がなく、異常な自信もつらくなってその後はまったく読んでいなかった。  で、本多氏に名誉棄損で訴えられた著者の裁判記録が本書。ベトナムの僧侶の集団自殺事件について、本多は現地の宗教壇代のコメントとして、実質的なセックススキャンダルだったと記す。一方で著者は別の取材から、それが政府への抗議の自殺だったとの確信を深め、本多氏は自説を補強するために引用の形を取って紹介しているのであり、ジャーナリストとしての在り方を批判した。  総論からすると、著者の指摘する内容は妥当だと思う。本多はルポという形を標榜しながら政治的立場をはっきりさせているし、そのためにルポを使っているように感じる。(この書籍からは外れるが、本多氏が自身の過去の著作の内容を増刷の際に改竄して、なおかつ当時そう書いていたように見せている例があることは別の人々が指摘している)  最も興味深かったのは、著者がベトナムの宗教団体のコメントである「(この事件は)堕落と退廃の結果」を「本多氏がいっている」と記した部分についての判断だ。裁判ではこれは「適切を欠く」と指摘しながらも、全体の趣旨としては誤解を招かず引用の範囲内にあり、名誉棄損にあたらないとした。さすがに主語と変えているのは問題で、著者は<筆が滑った>と反省するのかと思ったが、「引用の誤りでも、改竄でもなく、本多氏のルポルタージュの唯一の正しい読み方だと信じる」と敢えて述べる。常識人が本多氏に単に絡まれたわけではなく、最後にちょっとずれた感覚を示すところが、確信犯で震えた。

Posted byブクログ