三輪山の古代史 の商品レビュー
奈良の大神神社で毎月開催されている「三輪山セミナー」を単行本化したものなので、巷の古代史本よりは読みやすいかと思い、奈良大和路の旅に携行。 セミナー収録という形だけに平易な語り口調で書かれているものの、よくあるオカルティズム的な胡散臭い“古代史謎解き本”ではなく、アカデミックな...
奈良の大神神社で毎月開催されている「三輪山セミナー」を単行本化したものなので、巷の古代史本よりは読みやすいかと思い、奈良大和路の旅に携行。 セミナー収録という形だけに平易な語り口調で書かれているものの、よくあるオカルティズム的な胡散臭い“古代史謎解き本”ではなく、アカデミックな世界の先生方による研究を基にした内容であるため、かなり信憑性が高く、かつ楽しめて読めた。 この本を読みながら実際に大神神社と三輪山を含む「山辺の道」を中心とした“ヤマトの地”に立ってみると、いわゆる邪馬台国や卑弥呼の墓がどこにあったかはともかく、多くの遺跡や古墳群を目の当たりにし、三輪山近辺はかつて日本の最も古い聖地のひとつであったことに加え、間違いなく国を治める王権が存在していたのだと実感する。 特に、ヤマトの地は出雲地方とも歴史的に関連が深く、大神神社の御祭神である大物主神は出雲大社の御祭神である大国主神と同一であるという伝説もあるように、大神神社での御祈祷の際に上げる祝詞が出雲大社のものと同じ「幸魂奇魂守給幸給(さきみたま くしみたま まもりたまひ さきはえたまえ)」であることや、三輪山のすぐ南に出雲という地名があることなども非常に興味深い。 本書にも書かれているが、かつて出雲地方に存在した強大な王権がヤマト王権の支配下に入ったということが、「出雲国造神賀詞(いずものくにのみやつこかむよごと)」の内容や記紀神話から読み取ることができ、そのことが祭祀道具の変遷にも関係しており、出雲王権が勢力を拡げていた頃の銅剣・銅矛・銅鐸から青銅製の鏡や埴輪などに変わったことは、いわば王権の交代をきっかけとした「宗教革命」が起こったという説得力のある仮説・論考に展開され読む者を飽きさせない。 日本の古代史には様々な説が存在するが、いずれにせよ、朝鮮半島を含む中国大陸の各地から朝鮮半島を経由して海を渡り日本列島に渡来した民族が土着民族と融合しながら勢力を拡大し、やがてヤマトの地にひとつの統一国家を樹立するに至るという流れは揺るぎのないものであろう。 また、初期王権を樹立した有力民族は元々中国南方をルーツに持つ海洋民族であったという論考も、歴史地理学の観点では信憑性が高いという。 遙か彼方の海洋民族が海を渡り、やがてこの日本の礎を創っていくということを想うだけでもロマンを感じずにはいられない。 日本の源流を今一度考え、そして感じる上で大変参考になった。
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