元気かい?プルガサリ の商品レビュー
2003年出版。プルガサリ制作陣の一人として北朝鮮に行った造形美術スタッフの著者による手記。同じ系統の本に、プルガサリの中に入って演じた役者の「ゴジラが見た北朝鮮」があるが、そちらに比べるとより客観的に滞在中の出来事が書かれており、北朝鮮で仕事をすることはどういうことかがよくわか...
2003年出版。プルガサリ制作陣の一人として北朝鮮に行った造形美術スタッフの著者による手記。同じ系統の本に、プルガサリの中に入って演じた役者の「ゴジラが見た北朝鮮」があるが、そちらに比べるとより客観的に滞在中の出来事が書かれており、北朝鮮で仕事をすることはどういうことかがよくわかる。 興味深いのは以下のエピソードだ。 著者らは撮影所で仕事をしたあと、マイクロバスで金正日の別荘とされる招待所に帰宅する。しかし、朝鮮人労働者の乗合いバスの様相を呈しており、ぎゅうぎゅう詰めの車内に著者がいないことを誰も気づいていなかった。 困惑する著者を、同じく撮影所で働いていた10代の若い男性が共に一般のバスに乗り、地下鉄に乗って申フィルムの事務所にまで連れて帰ってくれる。 そこでようやく、監督と連絡がついて車を送ってもらうのだが、その車は再び撮影所に戻って若い朝鮮人をおろす。家まで送る、という著者に彼は夜中の暗い撮影所に立ち「ここでいいんです」と言って別れる。 その後、著者の周りにはいろんな人が訪れ、「地下鉄で何か見なかったか」と聞くのである。著者が思った通りのことを話すと、そうですか・・・と言って去るのだが、結局、著者を事務所まで連れて帰ってくれた若い男性は、それっきり撮影所に姿を表すことはなかったという。外国人に地下鉄の「何か」を見せたからだろう。 非常に軽いテイストの本だが、そこには北朝鮮の得体の知れない閉塞感が漂う。監視され、半軟禁状態に置かれて仕事をせざるを得ない製作陣たち。しかしそんな中でも、彼らと心を通いあわせ、危険を押してでも日本人を助け、プレゼントをくれる朝鮮人たちも姿も描かれている。だからこそ、より悲しい。 日本人製作陣が帰国した後、「プルガサリ」の監督、申相玉とその妻は電撃脱北をする。その後、彼らの身の回りには変な人物がウロウロしたり、不審な電話がかかってきたりしたのだという。 北朝鮮とはどういう国か、その一端が垣間見れる一冊である。
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