Love Letter「隣りの熟婦人」 の商品レビュー
まさにラヴレターな文通形式による不倫の一部始終
何と言うか、存在として稀有である。奇抜とも言えようか。この筆名で本作のみ。他に作品が見当たらないことからデビュー作となるが、余りに特異な構成や文体で初めての1冊というのは疑わしく、既出作家の別名義と考えるのが妥当であろう。むしろ別名義故に普段は出来そうにないアイデアを試した感があ...
何と言うか、存在として稀有である。奇抜とも言えようか。この筆名で本作のみ。他に作品が見当たらないことからデビュー作となるが、余りに特異な構成や文体で初めての1冊というのは疑わしく、既出作家の別名義と考えるのが妥当であろう。むしろ別名義故に普段は出来そうにないアイデアを試した感がある。50代の主人公と30代のヒロイン。隣同士なるが故に出会い、互いに一目惚れに近い想いを抱き、求め合い、結ばれ、許されぬ関係を深め、そして運命の悪戯に遭遇する。そんな現実味のある不倫の始まりから終わりまでを電子メールという形ながら事実上の文通で綴った作品である。 フルネームでの宛名(書き出し)から文中では相手を苗字で記していたのがいつしか名前に変わり、末尾の自署も名前だけになっていくような、そして堅苦しさのあった文章が徐々にこなれていくような、そんな距離の縮まり方が自然であり、ちょっぴり胸キュンだったりする。他人の恋文を覗き見ているような気恥ずかしさも少々。 妻ある身の主人公は早期退職に志願して今はフリー。対してヒロインは未亡人。互いに白昼の余暇がある。こうした時間的な余裕と、隣人同士なので主人公の妻とヒロインも既知の間柄という距離感が思わぬスリルを呼ぶ形で淫猥度の高いシチュエーションを醸造している。妻の外出を見届けた主人公がヒロイン宅へ向かい、その妻の外出をヒロインも目視しているような、そしてヒロイン宅で淫らな時間に耽り、時には不意の来訪者によって思わぬ情交に至ったりしている。中盤以降では2人で温泉旅行に出かけたり、緊縛プレイに高じたり、遂にはお尻まで責める程エスカレートしていく。妻への負い目、隣の旦那を寝取る負い目を充分に感じながらも止められない背徳の情事である。 一軒家が並ぶ住宅地を買い上げてマンション建設を目論む不動産屋への反対運動という共通点が背景にあり、これもまた運命共同体のような連帯感の素地になっているのだが、エスカレートした2人の行動が仇となって急転直下の結末へと向かう。やや強引な幕引きに写るが、作者としては当初より想定した流れなのであろう。メール(手紙)故の一方的な伝達が皮肉な結果を助長しているようでもあり、最後まで文通形式の構成が冴えた作品だったと言えるかもしれない。
DSK
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