完訳 緋文字 の商品レビュー
17世期のアメリカ、ニューイングランド。宗教が支配する社会に罰せられ、晒し者にされながらも強く生きる女性。罪の意識に苛まれながらも告白することのできない男。現代とは全く異なる社会の価値観に驚かされる。最後は感動的でした。
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胸に緋の文字をつける女と、胸の内に緋文字を抱く男。 姦淫の罪を犯して、いくら改悛してると言っても名乗り出ない男は怯懦だと思ったけど、長いこと敵を告げない女も、相手を憎み続ける元夫も、全員罪深く哀れだと思った。 互いを憐れみ互いのやり方で罪を償い、長い7年間だった。象徴的なAを胸に...
胸に緋の文字をつける女と、胸の内に緋文字を抱く男。 姦淫の罪を犯して、いくら改悛してると言っても名乗り出ない男は怯懦だと思ったけど、長いこと敵を告げない女も、相手を憎み続ける元夫も、全員罪深く哀れだと思った。 互いを憐れみ互いのやり方で罪を償い、長い7年間だった。象徴的なAを胸に着けさせる、当時のニューイングランドの空気と新しい政府と人々の考え方が興味深い。
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約二百年前の作家が、さらに約二百年前を舞台にして書いた物語ってだけで文学ってすごいね、って思う。 ヘスター・プリンは気高い。 牧師様の神経が衰弱していく様が見所。 字の文がまどろっこしくて流し読みになってしまったので、時間を置いて読み返すとさらに印象が変わるかも。
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19世紀アメリカの作家ホーソーン(1804-1864)による長編小説、1850年。舞台は、イングランドを追われた清教徒(Pilgrim Fathers)がアメリカ大陸に渡った1620年からおよそ一世代後、17世紀半ばのニューイングランド。 新大陸にて自らの理想社会を建設しようと...
19世紀アメリカの作家ホーソーン(1804-1864)による長編小説、1850年。舞台は、イングランドを追われた清教徒(Pilgrim Fathers)がアメリカ大陸に渡った1620年からおよそ一世代後、17世紀半ばのニューイングランド。 新大陸にて自らの理想社会を建設しようと企てた清教徒の共同体は、彼らの謹厳実直で禁欲的な性格を反映してか、独特の宗教的厳格主義の傾向を帯びている。この清教徒社会の厳格主義的傾向はさらに宗教的不寛容をもたらし、1692年にはセイラム魔女裁判として悪名高い魔女狩り事件が起きている。ホーソーンの祖先はこの裁判で判事を務めた。そうした時代的背景が物語の空気を一貫して陰鬱で重苦しいものにしており、20世紀以降の奔放で享楽的なアメリカの姿との対照が印象的だった。 「彼らのすぐあとの子孫、つまり初期移民の次の世代には、清教主義のひどく暗い影がまといついて、そのために国民全体の顔つきがすっかり陰気になってしまい、それから長い年月をへたというのに、いまなお浮かない顔つきをしている始末である」 □ 清教徒の厳格主義から来る自己懲罰的な傾向や、神に対するマゾヒスティックなまでの隷属ぶりからは、殆ど病的な印象を受ける。キリスト教信仰の文化がマゾヒズムという感性を醸成させたのではないかと空想してしまうほどに。「神」「罪」「地獄」などの宗教的な観念に、キリスト教徒の精神は如何に深甚に隷属させられてきたか。科学的な根拠の無い宗教的な観念を用いて生の苦悩を表現し・それを解釈し・そこから何らかの実践を導き出す、そのために延々費やされる大仰な語彙の堆積を見るたび、そうした形而上学的言辞の豪奢な虚しさ(当該形而上学の体系内で交わされる語彙の相互関係においてのみ有意味であるが、その外部から見ると全く無意味なものとしか映らない)と、にもかかわらずそこに注がずにはおれなかった奴隷的強迫的な情熱の膨大さとに、気が遠くなる。 「ほんの一瞬まえ、彼女は希望をこめて、それを深い海に沈めてしまうと口にしたばかりだったのに、彼女がこの致命的なしるしを運命の手から再度もらい受けたとき、またしても彼女の上には避けがたい宿命の気配がただよった。・・・。つぎにヘスターはゆたかな髪をたばねて、帽子の下に押しこんだ。すると、まるでその悲しい文字には、物をしぼませる魔力がひそんでいるかのように、彼女の美しさは、その女らしい暖かさや豊かさともども、たちまち日がかげるようにかき消え、灰色の影が彼女のうえに落ちかかるように思われた」 「わたしたちの破った掟!――いまこうして恐ろしくもあらわになった罪!――それだけを考えておくれ! わたしは恐れるのだ! 危惧するのだ! わたしたちが神を忘れたとき――わたしたちがおたがいの魂に対する尊敬をうしなったとき――そのときから、来世であいまみえ、きよらかに永遠に結ばれる希望はかなえられなくなったのではないかと。神はごぞんじだ、そして神は慈悲深い! 神はその慈悲を、なかんずく、私の苦しみのもなかにお示しになった。・・・。もしこういう苦悩がひとつでも欠けていたなら、わたしは永劫の地獄に呻吟することになっていただろう! 神のみこころが行われますように! さようなら!」
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17世紀、ニューイングランドのピューリタン(清教徒)社会。ボストンに住むヘスター・プリンには夫がいたが、数年前に家を出て以来消息を絶っていた。彼女は村の牧師ディムスデールと愛し合い、娘パールをもうけた。姦通の罰として彼女は 姦婦(adulteress)を示す赤いAの字を服につけさ...
17世紀、ニューイングランドのピューリタン(清教徒)社会。ボストンに住むヘスター・プリンには夫がいたが、数年前に家を出て以来消息を絶っていた。彼女は村の牧師ディムスデールと愛し合い、娘パールをもうけた。姦通の罰として彼女は 姦婦(adulteress)を示す赤いAの字を服につけさせられ、衆人環視のもと非難されたが、彼女は赤ん坊の父親が誰であるかを決して言わなかった。そこへ、へスターの夫がロジャー・チリングワースという名前の医師として村に戻ってきた…。 閉鎖的な社会において、さらし者にされるヘスター・プリン。姦通に対してこのような形で罰することに慄然とする。 人物の心象世界の叙述や象徴的文言で文章が編まれているため、個人的には結構読みにくさを感じたが、多様なイメージを喚起するのが名著の理由なのだろうと思う。
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1850年発表、ナサニエル・ホーソーン著。姦通のかどで胸に赤い文字を付けることを強制され、罪の子を育てることになった女。罪の意識で揺れ動く青年牧師。復讐に燃える、元の夫である医師。17世紀アメリカ清教徒社会を舞台に、彼ら三者、そして群集の心理から、罪と自由の本質を問う。 すさ...
1850年発表、ナサニエル・ホーソーン著。姦通のかどで胸に赤い文字を付けることを強制され、罪の子を育てることになった女。罪の意識で揺れ動く青年牧師。復讐に燃える、元の夫である医師。17世紀アメリカ清教徒社会を舞台に、彼ら三者、そして群集の心理から、罪と自由の本質を問う。 すさまじく象徴性に富んだ小説だった。 まず後書きにもあった、文体の「多項目選択的記述」が特徴的だった。こうかもしれない、こうかもしれない、と幾重にも文章を積み重ねて、深く薄暗い雰囲気を巧く充満させている。本小説、キリスト教的な罪を語っているという都合上、どうしても説教臭くなる場面が多々あるのだが、文体による文意の曖昧さによって嫌味は随分緩和されているように感じる。 文体に加え、あらゆるモチーフが象徴的だ。そもそも「緋文字」自体が象徴であるし、主要人物三人そのものも罪を背負った何かしらの聖なる人物(あるいは悪魔)のようでもあるし、罪の子パールの執拗に神秘的な存在感、更には何気ない自然風景の描写にいたるまで。とにかく全てが徹底して、象徴を意識して描かれている。 本小説は、もし単に姦通事件を描くだけだったら、今更読む価値のない古典になっていたはずだ。だが著者の象徴性への偏執的なこだわりによって、物語にいつまで経っても読み解けない、淵のような深みをたたえることになったのだろう。
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[配架場所]2F展示 [請求記号]B-933/H45 [資料番号]2004300017、2012100001
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
オックスフォード大学出身の若い牧師が老学の若い妻と不倫を犯し、妻としての不名誉を二人の間に生まれた子供を抱き、晒し台の上で3時間立たされ、町中の者に恥をかかされ胸に緋文字の“A”(不倫を犯した女性)を縫い付けさせられる。一方牧師は口をつぐみ、7年間隠された罪に苦しみ悩み、最終的に同じ晒し台に登り、告白して死ぬ。 北九州市立大学:名誉教授 乘口眞一郎
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大学の講義で取り上げわられたので読みました。一読しただけでは腑に落ちない部分が多くあったので、「緋文字」についての論文をいくつか参考にして疑問を解決し、自分なりの解釈にたどり着くことができました。
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ウェーバーのプロ論を読了後に本書を手にとってしまったためか、ついつい「資本主義の精神の源泉は、こういったところからきてるんだねー」なる感想が浮かんでしまう。厳格さと禁欲を旨とするはずのピューリタンたちが、なぜシャイロックを初めとする商人たちを差し置いて資本主義の担い手となったのか...
ウェーバーのプロ論を読了後に本書を手にとってしまったためか、ついつい「資本主義の精神の源泉は、こういったところからきてるんだねー」なる感想が浮かんでしまう。厳格さと禁欲を旨とするはずのピューリタンたちが、なぜシャイロックを初めとする商人たちを差し置いて資本主義の担い手となったのか。天職という概念の前提となる、予定運命説という価値観を、信者達はどのように解釈していたのか。17世紀中期、イギリスから移住直後のニューイングランドを舞台とする、アメリカの「始まり」の物語。
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