武家用心集 の商品レビュー
10年ぶりの再読。どの作品も秀逸。自分を育ててくれた血のつながらない祖母の人生に生きる意味をもとめる孫娘を描いた「うつしみ」がいい。
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不自由な武家社会の中で、不測の事態を切り抜けてゆく人々を簡潔で静謐な文章で描きだす8編。《田蔵田半右衛門》郡奉行の一人だった半右衛門は罪を犯した友人の逃亡と知らず助けたために罰を受ける。その後の不遇と人間不信から立ち直る男を描く。《向椿山》種痘術を学び国元に戻った青年医師は、五年前に将来を約束していた女性の変貌と向き合う。藩内の政争や肉親のしがらみ、世間のうわさや嫉妬、身にかかる諸々のなか、生きる上で一番大切なのは何か。己を見失うことなく生きようとする人々を描く、短編ながら引き込まれ読みやすい。
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感動的な短編の集まりでした。老母の世話を巡る兄妹とその連れ合いの押付け合いは暗澹たる気持ちになりましたが救いがありました!。若い日に裏切った友との引退後の心の交流の回復などもジーンとくるものがあります。また失敗し減禄になった武士が兄から依頼された暗殺を断るまでの心の葛藤とその後・・・いずれも素晴らしく、この年になって読むのにふさわしい本でした。藤沢周平の世界に通じるものがあります。そして後半の短編は以前の「吉次」「椿山」などのように、恋心、華やいだ色香を感じさせる佳品そろいは若き日の恋のほろ苦いまた非常に深い悔悟を感じさせる作品の数々。そして身近にいる奉公女を妻にしようと決意する「邯鄲」は素晴らしかったです。各短編でこのような感動的な気持ちの襞を描けるのは素晴らしいです。
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乙川優三郎の小説を読むのは、これで6冊目になるが、すべて秀作ぞろいで、どれひとつとして外れたものはなかった。 この「武家用心集」もこれまで読んできた作品同様、人生の岐路に立たされた人間たちの迷いや苦しみを、感動的に描いている。 そうした苦難に遭遇するとき、人はともすれば己を見失い...
乙川優三郎の小説を読むのは、これで6冊目になるが、すべて秀作ぞろいで、どれひとつとして外れたものはなかった。 この「武家用心集」もこれまで読んできた作品同様、人生の岐路に立たされた人間たちの迷いや苦しみを、感動的に描いている。 そうした苦難に遭遇するとき、人はともすれば己を見失いがちになる。 しかし必ず拓ける道はあるのだということを、示唆してくれる。 そして生きることにおいて、何が大切なのかを教えてくれる。 また「しずれの音」では老人介護を、「九月の瓜」では隠居後の生活を、そして「磯波」では女がひとりで生きていくということを描くことで、今の時代にも通じるものを提示しており、いつの時代にも変わらぬ普遍的なテーマを見ることが出来るのである。 無駄がなく品格を感じさせる文章から紡ぎ出される、瑞々しい自然描写や細やかな心理描写、そして考え抜かれたストーリーと構成によって紡ぎ出される物語の気品や味わい、そうしたことを考えるとき、乙川優三郎は間違いなく、山本周五郎や藤沢周平の後を継ぐ作家であることを、実感するのである。 そして今回の「武家用心集」を読んで、その思いはますます確かなものになったのである。
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