魚味礼讃 の商品レビュー
魚のおいしさをぎゅっ…
魚のおいしさをぎゅっとつめこんだような、そんな一冊。一気に読めるが、読んでいくのがもったいない。食べたくなる本。
文庫OFF
浅草紀文寿司4代目、1948年生まれ。1990年の単行本が文庫化されたもの。 …私はよく「調子が高い、低い」という表現を使いますが、調子が高いという意味は、そのものがもつ混じり気のない清澄さや、染みこむような奥行きの深さ、いつまでも心地よく長く残る残留香のことなのです…私が食味...
浅草紀文寿司4代目、1948年生まれ。1990年の単行本が文庫化されたもの。 …私はよく「調子が高い、低い」という表現を使いますが、調子が高いという意味は、そのものがもつ混じり気のない清澄さや、染みこむような奥行きの深さ、いつまでも心地よく長く残る残留香のことなのです…私が食味に関して常に考えていることは、この嗅覚がとらえる香りという意識です… 何というかボクの味覚のはるか上方を飛翔して降り立つことがない、すなわち現代庶民の生活実感から遠い場所、築地で最高級の寿司ネタを「嗅ぎ分ける」方のご見識を学ばせていただいたような感想だ。勉強にはなるし、登場し、その勘どころが開陳されるところの魚たちに、ほおそういうものだったのかと関心を寄せることもできる。そして、ボクが知らなかった、その魚たちが備える奥深いおいしさへのアプローチの入り口を教えられもする。ときにその味わい香りをワインに喩え、古代の色になどらえる文章も格調高い。素材への探求が充分な説得力を備え、脇の甘さ微塵もない。 であればこそ、天然の味わい、旬の装いの記憶を、忘れて久しいボクたち東京第二第三世代の、現実の食の貧しさに思いが至ってしまい、愕然としてしまう。 できることならこの人と、名もない小さな港町を歩いてみたい。汐の香りにむせ返りながら、港に揚がる様々を、嗅ぎ分け、見出し、味わいたい。そしてネコまたぎよろしく、港の隅に打っちゃられるような雑魚たちに、その眼差しでウデをふるってほしいなぁ。いや、読み応えあるいい本なのですよ。
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