決定版 三島由紀夫全集(16) の商品レビュー
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「世々に残さん」と「菖蒲前」だけ読みました。 「世々に残さん」1943年(18歳) 平家ゆかりの武将である春家と秋経と山吹の話。 18歳でこの作品を書いたというのは脱帽だが、話の内容としては「菖蒲前」の方が好きでした笑 やはり三島は『平家物語』はしっかり履修していて、そりゃそうだと改めて安心。知盛卿とも仲良く、平氏の公達よりも公家っぽい…というのを架空の人物に込めたのは少し無理があるんでは?というのが可愛かった。 …春家はもはやこれまでと、あたりのものを斬りちらして、船ばたから海の潮に身を投げる。春家の今身を沈めた海の上は夜が来ればますます濃まさる藍であつた。そしてほのかな波がたえず岸をさしていそぐところ、何人の放つた矢か、しづかに西へとただようてゆくところ、梅のかをりこそふさはしい宵闇から、春の雪がふりしきつてきた。浮いつ沈みつしてゐる色さまざまな武具のなごりに、淡い春の雪がふりつもつては消えて行つた。(ゐ) 私としては八島で散ってほしかったので、ここの描写は好きなのだけれど… 春家の装束が「赤字の錦の直垂に綾縅の鎧を著け、鍬形打つたる兜の緒をしめ、金作りの太刀を佩き、二十四さいたる切斑の矢負ひ、滋藤の弓を持つたる姿…」というのもまさしく平家の名乗りだなあ。 タイトルを見るに、『建礼門院右京大夫集』も読んでいるのだろう。 「おなじくは心とめけるいにしへのその名をさらに世にのこさなん」…春家は資盛らしさがあるよね、山吹が右京大夫で。 「菖蒲前」1945年(20歳) 頼政と菖蒲前の話。こういう色恋にすぐするから三島は笑 といいつつ、身勝手な男に振り回され、それでも操立てをし、ただ一度最後に会いたいと願い、最後は「一本の菖蒲草」に身を変える女の恋、好きです。 また五月の花の精が、「杜若、杜鵑花、葵、一八、卯の花、花橘、紫陽花、薔薇など…」て書いてあるのくすりと笑ってしまった。 それから「春は矢張雪よりも白梅から始まるものと考へたい」(破の二段)の一文も、何か指し示しているのではないかと思ってしまいます。
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