1,800円以上の注文で送料無料

パストラリア の商品レビュー

4.3

9件のお客様レビュー

  1. 5つ

    4

  2. 4つ

    2

  3. 3つ

    2

  4. 2つ

    0

  5. 1つ

    0

レビューを投稿

2020/12/26

人に胸をはって就きたい職業に就いてるとは言えない。日々生活するので精一杯。なのにどうしてかトラブルは起き、可哀想な羊達は悲鳴を上げざるをえない。非常に力のある作者が書く平民の生の叫び。こういう、そこらに転がってるテーマって書く側のセンスが丸裸にされるね。しかしだね、こういう人達の...

人に胸をはって就きたい職業に就いてるとは言えない。日々生活するので精一杯。なのにどうしてかトラブルは起き、可哀想な羊達は悲鳴を上げざるをえない。非常に力のある作者が書く平民の生の叫び。こういう、そこらに転がってるテーマって書く側のセンスが丸裸にされるね。しかしだね、こういう人達の変則的に家族と暮らしてる感がちょっと羨ましいというか、微笑ましい。ウザイと思いながら母親の言うことを聞いたり、妹も従姉妹も幼児を抱えながらの同居だったり。そういった感じの人々に向上心を持てとか空気読まないこと言わないでくれたまえ。

Posted byブクログ

2020/02/22

「パストラリア」「シーオーク」は、滑稽なんだけど、なんともやりきれない。「床屋の不幸」はラストどうなるかとハラハラ。「滝」は油断していたらガッツリ魂ゆさぶられた。面白かった。

Posted byブクログ

2020/02/19

ジョージ・ソーンダーズがまだソウンダースだった頃、初めて日本語に訳された短篇集。『十二月の十日』を読んで、その魅力にハマったので、これまでに訳された本を探してきては読んでいる。訳者の岸本佐知子が「登場する人物は、ほぼ全員がダメな人たちだ。貧乏だったり、頭が悪かったり、変だったり、...

ジョージ・ソーンダーズがまだソウンダースだった頃、初めて日本語に訳された短篇集。『十二月の十日』を読んで、その魅力にハマったので、これまでに訳された本を探してきては読んでいる。訳者の岸本佐知子が「登場する人物は、ほぼ全員がダメな人たちだ。貧乏だったり、頭が悪かったり、変だったり、劣悪な環境下で暮らしていたり、さまざまな理由でダメでポンコツな人物たちが、物語を通じてますますダメになっていく」と書いているが、その作風は初期の頃から確立していたようだ。 巻頭に置かれた表題作「パストラリア」の主人公も劣悪な環境下にある。客がほとんどやってこない、奥地のアトラクションに住み込みで勤務し、原始人に扮して洞窟で暮らしている。誰も来ないのに、二人きりの洞窟で相手との会話が禁じられている(原始人なので)。律儀にそれを守り、ジェスチャーで相手と意思疎通しようとする男と、平気で口を利き、見物客と喧嘩をする女との、どこまで行ってもすれちがうやり取りが絶妙。 景気が悪く、他のアトラクションが閉鎖され、仲間が次々と去っていくなかで、自分の首を心配しながら不自由な生活を送る二人。彼らは相互監視のシステムで、相手に関する評価書を書かされている。生き残りを賭けて、相手を売るかどうか迫られている、というのが実情だ。ソーンダーズは、資本主義社会のシステムに押しつぶされる人間を描くのが得意だ。二人の姿はSF的意匠で誇張されているが、一皮剥けば現代社会のリアルな表現である。 サイレントの喜劇映画を見ることがある。主人公は散々な目に遭っているのに、観客である我々はそれを面白いと笑って観ている。ソーンダーズの小説を読むことには、それと同じアイロニーが潜んでいるように思う。表現は露悪的にまで過激で、状況は劣悪、事態は加速度的に悪化していく中で、人物は二進も三進もいかなくなる。切羽詰まった姿は確かに滑稽だが、よくよく考えてみれば、彼らの置かれている立場は我々自身の姿だろう。 サイレント映画の人物は無言だが、ソーンダーズの描く人物は、すこぶる饒舌だ。妄想が逞しく、そこまで言わなくてもと思えるほど、自分の内心を吐露したがる。おまけに自己を卑下するのが特徴で、これでもかというくらいに自分のダメなところを強調する。足の指がなかったり、デブだったり、いい年をして女性経験がなかったり。自分がダメでない場合でも、面倒を見ている家族はダメダメで、いつも苦労させられている。 中でもユニークなのは「シーオーク」だ。主人公の「おれ」はスラム街に住み、Tバック姿で女性客の相手をするストリップ・バーに勤め、一向に働こうとしない家族を養っている。仲間うちには禁じられているペニスを見せてチップをせしめている者もいるが「おれ」はそこまではしない。ここでも主人公は規則を守る側にいる。劣悪な状況に置かれていても、ソーンダーズの描く人物は基本的に根が真面目なのだ。だから、他の者のようにはいい目を見ることができない。 そんなある日、家に強盗が入り、「おばちゃん」が殺される。貧乏な一家には段ボールでできた棺桶しか買うことができない。分割払いでバルサ材の棺桶にランクを上げて埋葬を終える。ところが、その「おばちゃん」が帰ってくる。勿論死んでいるのだが、腐敗が進む死体の姿で「おれ」を叱咤する。「明日からおまえは、客にチンチンを見せるんだ。見せて見せて見せまくるんだ」と。残された家族が心配で死にきれなくて戻ってきたのだ。 腐敗は進行していく。一日一日、時が過ぎるままに腕がもげ、足がちぎれ、椅子の上に腰かけていられなくなる「おばちゃん」の姿がシュールだ。それでも叱咤は続く。「おれ」は心を入れ替え、ペニスを見せて金を稼ぐようになる。お陰で安全な地区に引っ越し「おばちゃん」の墓も立てることができた。夢の中で「おばちゃん」は言う。「すべてを手に入れる人間もいるっていうのに、あたしはどうしてなんにも手に入れられなかったんだ? どうしてなんだ? いったいどうしてなんだ?」。ユーモアに塗してはいるが、絶叫だろう。 他に、少し頭の弱い妹の世話に手を焼き、自己啓発セミナーを受けることで、自分本位の生き方を見つけようとする兄と妹の同居生活を描いた「ウインキー」、いじめられっ子が、頭の中で仕返しを考えながら自転車を走らせる姿を描く「ファーボの最期」、体の大きい女を好きになり、様々な妄想に耽る床屋の日常を描く「床屋の不幸」、影の薄い男が、滝に落ちようとするボートに乗った女の子の姿を見つけ、川に飛び込むかどうしようかと躊躇逡巡する様子を描く「滝」の四篇を含む六篇を所収。どれも、ソーンダーズならではという、独特の味を堪能できる。

Posted byブクログ

2018/01/07

 6編からなる短編集。 「短くて恐ろしいフィルの時代」が面白かったにも関わらず、物語の終わらせ方に多いに不満を感じていたのだけれど、この「パストラリア」に関しては文句のつけようもなかった。  前半3編と後半3編では作品の雰囲気が少し違うような印象を受けるが、どちらにも共通して...

 6編からなる短編集。 「短くて恐ろしいフィルの時代」が面白かったにも関わらず、物語の終わらせ方に多いに不満を感じていたのだけれど、この「パストラリア」に関しては文句のつけようもなかった。  前半3編と後半3編では作品の雰囲気が少し違うような印象を受けるが、どちらにも共通して言えるのは、自分の思い通りには行かない人生であり、全てを手にいれたものと、手にいれることの出来なかったものの対比であり、ハッピー・エンドではない物語の終わらせ方だ。  どの物語も心に大きなものを残してくれるのだが、表題作であり、捉え方次第では「プロレタリア文学」とでも言えそうな「パストラリア」、滑稽で風変りであるが、哀しく切ない「シーオーク」、話としてはベタな展開なのだけれど、自意識過剰な妄想癖男の無自覚な最後の行動が妙に胸を打つ「滝」が良かった。

Posted byブクログ

2013/05/15

家族や生活環境や容姿、どうしても変えられないものの中でみんなもがいています。その究極の姿が独特のユーモアたっぷりに誇張気味に描かれています。 そんな様子が共感できました。全てを壊して、誰も私を知らない世界でゼロから生きられたらいいのに、と思うことが私は何度となくあります。 無責...

家族や生活環境や容姿、どうしても変えられないものの中でみんなもがいています。その究極の姿が独特のユーモアたっぷりに誇張気味に描かれています。 そんな様子が共感できました。全てを壊して、誰も私を知らない世界でゼロから生きられたらいいのに、と思うことが私は何度となくあります。 無責任にハッピーエンドにしていないところも好きです。

Posted byブクログ

2012/07/05

「短くて恐ろしいフィルの時代」があまりに面白かったので、これも読んでみた。 「フィル」は子どもでも読めるような物語だったけれど、こちらは大人向け。 表題作はテーマパークのようなところで原始人の生活をしている男の話なのだが、客は本物の原始人がいると思っているし、経営者もそう思わせる...

「短くて恐ろしいフィルの時代」があまりに面白かったので、これも読んでみた。 「フィル」は子どもでも読めるような物語だったけれど、こちらは大人向け。 表題作はテーマパークのようなところで原始人の生活をしている男の話なのだが、客は本物の原始人がいると思っているし、経営者もそう思わせるように仕組んでいるという設定がおかしい。 「シーオーク」はストリップをして家族を養っている男の話だが、善人のおばちゃんが死んだあと、戻って来てからの展開が笑える。 語り口が独特で、誰にでもお勧めはできないけれど、好きな人にはたまらないと思う。

Posted byブクログ

2012/08/31

6篇中一番好きなのは表題の「パストラリア」。原始時代の生活を再現してみせるテーマパークという舞台設定も可笑しい(笑い飯のネタを思い出した)し、登場人物たちの的を外しまくった会話も最高に面白いです。特に、生真面目な性格の主人公が、実際にはそこにいない羽虫を捕まえて食べる演技(エア羽...

6篇中一番好きなのは表題の「パストラリア」。原始時代の生活を再現してみせるテーマパークという舞台設定も可笑しい(笑い飯のネタを思い出した)し、登場人物たちの的を外しまくった会話も最高に面白いです。特に、生真面目な性格の主人公が、実際にはそこにいない羽虫を捕まえて食べる演技(エア羽虫!)を、観客が誰ひとりいないのに律義に続ける場面は笑えます。ジョージ ソウンダースの作品は他にもあるそうですが邦訳本がこれしかないのがとても残念。誰か訳して!

Posted byブクログ

2009/10/04

リアルな1冊。アメリカの作家ジョナサン・サフラン・フォアが「ユーモアだけが、悲しい話を真実として伝えられる」と言っていたけれど、この作品もそんな感じ。短編集なので電車の中で読むのにもお薦め。 アメリカ人がこういう話を書ける事も興味深い。

Posted byブクログ

2009/10/04

6つの短編が収録されていて、私がいちばん好きなのは「シーオーク」です。ファイバーボードやバルサ材の棺って…。しかも無さそうでありそうな匙加減が絶妙。蘇る「おばちゃん」のキャラクターも強烈です。 どの作品もダメ人間がかなりグロテスクに描き出されていますが、読んでて不思議と嫌な気持ち...

6つの短編が収録されていて、私がいちばん好きなのは「シーオーク」です。ファイバーボードやバルサ材の棺って…。しかも無さそうでありそうな匙加減が絶妙。蘇る「おばちゃん」のキャラクターも強烈です。 どの作品もダメ人間がかなりグロテスクに描き出されていますが、読んでて不思議と嫌な気持ちにならないのは、淡々とした語り口も一因だとは思いますが、作者に意地悪なところが無いからでしょうか? そんなスタンスに、ちょっと町田康に似たものを感じます。 他の作品も読みたいです。

Posted byブクログ