カルチュラル・スタディーズへの招待 の商品レビュー
本橋哲也さんはお会いしたことありませんが,東京都立大学助教授から東京経済大学教授へと,私との関係性は近い。そして,東京経済大学はコミュニケーション学部を設立したのがかなり早い時期だったが,カルチュラル・スタディーズという名称での教授職は本橋氏が日本で1番らしい。しかし,日本でカル...
本橋哲也さんはお会いしたことありませんが,東京都立大学助教授から東京経済大学教授へと,私との関係性は近い。そして,東京経済大学はコミュニケーション学部を設立したのがかなり早い時期だったが,カルチュラル・スタディーズという名称での教授職は本橋氏が日本で1番らしい。しかし,日本でカルチュラル・スタディーズ第一人者といえばやっぱり東京大学の吉見俊哉。他にも毛利嘉孝とか,上野俊哉が思い浮かぶが,かれらは皆社会学出身。 でも,そもそもカルチュラル・スタディーズは英国の文学研究から生まれたようなものだから,英文学出身の本橋氏の存在は重要かもしれない。そんなこともあってか,私は本橋氏の文章にはあまり接してこなかった。カルチュラル・スタディーズというよりもポストコロニアル研究の方が専門なような気もする。 さて,ということもあって,吉見氏や毛利氏のカルチュラル・スタディーズ入門書と比べて本書はかなり変わっているのかもしれない。といっても,私は吉見氏や毛利氏の入門書は読んでいないし,違う立場で同じような内容を書いても仕方がありませんが。もちろん,序章には通り一遍のことは書いてありますが,ウィリアムズやホガート,バーミンガム文化研究センター,ステュアート・ホール,構造主義,記号論のような誰がどうした,ということはまったく書かず,カルチュラル・スタディーズとは何を問題とすべきかということがまとめられている。そういえば,メディア研究やオーディエンス研究にも全く言及ありません。 ところで,本書がある種の教科書であるということのこだわりが,本書で紹介する参考文献の多くが日本語で読めるということを基準としていること。そして,なんといっても,独特なのが,1章以降は1章1編の論文を読み解きながら解説していくという構成をとっていることです。登場する著者は,岡 真理,酒井直樹,太田昌国,小谷真理,吉見俊哉,今福龍太,若桑みどり,田崎英明,徐 京植,高橋哲哉,といった面々。まさにカルチュラル・スタディーズが学問分野の垣根を越えた営為であることを示すように,哲学者,文学研究者,人類学者,社会学者,美術史家,歴史家,とそのもともとの所属は多岐にわたる。でも,それが故に読み進むたびに,本書がカルチュラル・スタディーズの入門書であることはすっかり忘れてしまう。そんな言葉すら使われなくなってしまうのだ。 そして,初めは比較的親しみやすいテーマだが,徐々に重たく大きい問題へとシフトしていき,非常に読みづらい。学部生レベルでどこまで着いてこれるのだろうか。まあ,院生レベルでも。非常に高度な教科書だ。
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