百姓一揆とその作法 の商品レビュー
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2002年刊行。著者は国士館大学文学部教授。 「カムイ伝」を読んでいるから手を伸ばしたなという書。 タイトルどおり江戸時代の百姓一揆論の書だが、従来の見解への異説を唱えようとする書だ。 特徴的なのは、①中世の一揆的結合との断絶、②武装闘争志向的なケースに一揆概念を限定しようとする(武器を備えない。合法的なもの。逃散のような改善志向のないケース。これらはいずれも一揆から除外する)点。 しかし、前者は兎も角、後者の採用は、一揆の要因、つまり苛政・暴政の内実検討をしなくなるのではないか、との疑問が湧いた。すなわち、徒党を組む行為が、合法的であろうとなかろうと、為政者に対する改善要求は、政治の状況に不備・不足があるからだろう。それが苛政に該当するかどうかも、内実検討なしに論じ得まい。 合法的とする場合を除外して、どうして当時の実情を把握できるのだろうか。為政者の処分が厳格か緩やかかを論じられるのか。あるいは百姓側が強気の交渉をできたかどうかを検証できるのだろうか。 現に本書では苛政の内実検討は殆どない。さらに苛政検討の前提たる江戸期庶民の生活実態を検討した形跡はさらにないのだ(著者の他書にあるかもしれないが…)。 しかも、現代からは、比較は勿論、想像すら出来ない罰の内実や取調べの在り方に筆が及ばないのは疑問符を付けざるを得なかった。 ただし、維新後の一揆の方が近世期よりも、武装闘争的側面が強くなってきた、との比較検討はなかなか貴重かも。 また、史料が割合に完備されている享保期以降の説明は、限定的ではあるが、納得できる点も多々見受けられた。逆に言えば、それ以前、特に元禄期よりも前は推測で結論を導いている箇所も見受けられたのも事実。 なるほど、商品経済の発展は、地域と時期を選べば妥当するだろう。江戸期が農民だけに困窮・困苦が押し付けられていたわけではなかったし、農民層にも多様性があったことも確かだ。また、百姓一揆自体の多義性も承認でき ないわけではない。 しかしながら、限定的に百姓一揆を捉えることで、それらが、農民自身の生命や、自らの人生行路、財産を賭した行動であった点を軽視するかの如き物言いは、どうにも座りが悪かったのも確か。
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