海霧(上) の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
原田康子さんは2009年に83歳で亡くなられているので、もうこの作品がひろく読まれることはないかもしれない。 「晩歌」が映画化もされ、社会現象にもなったというが、それも1956年のことだから、はるか過去のことである。 あえて、作者の家系をもとにしたというこちらの作品を読んでみた。明治から昭和のはじめまで、作者が「女系であった」という女3代の物語。 佐賀から釧路に移住し、一代で商家を築き上げた幸吉。その妻さよ。そして、作者の祖母がモデルになったという長女のリツ。たいへん個性的に描かれる彼女が、創作のもとになったという。商家を存続させるため、彼女の負わされた運命は過酷だった。子をなすためだけに、嫌う相手を婿に迎え、ようやく千鶴を産むが、26の若さで亡くなってしまう。妹のルイはその弟を婿養子に迎える。婿養子の兄弟によって、そして時代によって、平出商店は翻弄されていく。この時代を生き抜いた人々の壮大な物語。 それをずっと見続けるさよの視線に救われる思いがする。事実を淡々と綴っていく物語なので、読むリズムに抑揚がなく前半は長さがしんどかったが、この一族の行く末を最後まで見届けたくて、後半は一気に読んだ。 とても複雑な家族なので、家系図がほしかった。小女や女中もたくさん出てきて、混乱してしまった。 2017年12月、釧路市の文学館が開館する記念に、釧路の(素晴らしい)ローカル書店「コーチャンフォー」が1000部復刻して話題になった。またこの名作が注目されるのは嬉しい。
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