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天山疾風記 の商品レビュー

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「天山疾風記」を読む

前漢後期~末期の時代、西域で活躍した漢の武将の一人で、陳湯(ちんとう) という人物がいた。  漢が「西域」の秩序を維持するため設置した「西域都護」の副校尉として、 当時猛威をふるっていた匈奴撃破のため活躍した。  正史に残る実在の人物(「漢書」陳湯伝、匈奴伝、西域伝に収録...

前漢後期~末期の時代、西域で活躍した漢の武将の一人で、陳湯(ちんとう) という人物がいた。  漢が「西域」の秩序を維持するため設置した「西域都護」の副校尉として、 当時猛威をふるっていた匈奴撃破のため活躍した。  正史に残る実在の人物(「漢書」陳湯伝、匈奴伝、西域伝に収録)ではある のだが、品行方正とは正反対、実に破天荒な人物であったらしい。 「三国志」などの登場人物たちに比べ、知名度ではずっと落ちる陳湯ではある が、浅学な僕などがその名を記憶していられたのは、作家・田中芳樹氏が「中 国武将列伝」(中央公論社1996年)を上梓された折り、「私撰中国歴代名 将百人」リストの中に彼をいれておられたお陰である。  用兵にかけては天才的、決断力も実行力も尋常ではない。が、その素行に関 しては大いに問題ありの陳湯。なにしろ朝廷からの勅命があったと兵を騙して 匈奴との決戦に駆り立て、勝利すると戦利品を着服する有様! 西域の政情を安定させた功績から一時「関内候」に任ぜられるも、戦利品着服 が暴露されて僻地に流されたりもした。なんというか、波瀾万丈というか、じ つに浮き沈みの多い人生をおくった人物。 名将ではあるのだが、問題児の部類に入るのではないか。  と、こういう風に読むと、実態はどんな人物だったのだろう? 多くの読者には、そんな興味がわいてくることだろう。 あるいは、田中芳樹さん本人の「新作予定」の中に、「陳湯伝」があったのか もしれぬ。が、ここに、松下寿治という作家による「陳湯伝」が誕生したので ある。本書の陳湯であるが、若い!まるで、街のガキ大将が、稚気をのこした まま大人になった、そんな感じである。僕が田中芳樹さんのご本で知って以 来、抱いていたイメージとは相当ちがうのだが、これはこれでいい。 なにより読者を惹くモノがあると思うから。 魅力的な虚像をいかに創造するか、というのが作家の至上命題であるのなら、 これはこれで立派に合格である! 多くの人々に一読を勧める所以。

士門