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湯浅泰雄全集(1) の商品レビュー

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2021/02/23

『経済人のモラル』(1967年、塙新書)のほか、著者の倫理学にかんする論考を収録しています。 著者は、東大文学部の国史学科に入学し、倫理学科に移って和辻哲郎の指導を受けていますが、その後経済学部でも学んでいます。本巻に収められた論文のなかには、そうした著者の関心を反映して、経済...

『経済人のモラル』(1967年、塙新書)のほか、著者の倫理学にかんする論考を収録しています。 著者は、東大文学部の国史学科に入学し、倫理学科に移って和辻哲郎の指導を受けていますが、その後経済学部でも学んでいます。本巻に収められた論文のなかには、そうした著者の関心を反映して、経済学と倫理学の関係について論じたものが含まれています。とりわけ著者は、個人の内面における規範的意識をあつかう倫理学と、社会の仕組みを客観的に解明することをめざす経済学とのあいだに横たわる乖離に注目し、それを思想史的観点から考察しています。そのうえで、マルクスの疎外論においてこの問題が論じられているという主張をおこなっています。 また著者は、ケインズの人間観においても、近代合理主義を乗り越えて、社会的惰性にしたがって行動する人間のありようについて考察がおこなわれており、個人心理学から社会心理学への移行が見られることの思想史的意義を論じています。 もうひとつ興味深く感じたのは、日本思想史の観点から「正直」という倫理的価値がこの国に根づくようになった過程を明らかにするとともに、西洋の倫理的価値観との対比をおこなっている箇所です。著者は、こうした日本の倫理的価値意識が個人の内面に収斂する傾向をもっていたのに対して、人間関係の外面的規定が重視された西洋において客観的な経済学・社会学的考察が開始されたと主張しています。 著者は和辻にしたがって、「世界における人間行為の構造及び原則を一般的に明らかにする学」が倫理学であると規定しています。本巻所収の倫理学的論考は、そのような立場から経済をはじめとするさまざまな人間の行動を考察の対象としており、ビジネス倫理学の領域にまで説きおよんでいます。

Posted byブクログ