蜩 の商品レビュー
慶次郎縁側日記シリーズ第五作。 今回は悪党受難の巻。 『面白かったが、まとまりのない話』(晃之助談)という「権三回想記」は、女を騙しては金を吸い上げ逃げる手口を繰り返してきた権三が逆に女にこき使われる『女はこわい』というオチ。 「天知る地知る」では「さかさ美人局」という手口で...
慶次郎縁側日記シリーズ第五作。 今回は悪党受難の巻。 『面白かったが、まとまりのない話』(晃之助談)という「権三回想記」は、女を騙しては金を吸い上げ逃げる手口を繰り返してきた権三が逆に女にこき使われる『女はこわい』というオチ。 「天知る地知る」では「さかさ美人局」という手口で女たちから金を脅し取ってきたカップルが、カモにしようとした女から『孟子の心』をテーマに諭され何故か改心したまでは良かったが、晃之助も癪に障るようなオチ。 そして表題作の「蜩」では蝮の吉次が所帯を持ったと辰吉から知らされた慶次郎。『小柄で貧相で、意地のわるいことにかけては江戸で一、二を争う』『一緒になれば苦労することは目に見えている』と散々な評価の吉次だが、その顛末は意外なものだった。第二作の「再会」では女を信用しないと言っていた吉次なのに、やっぱり美しい女には弱いのか。 だがきっとただでは起きないのだろう。それと慶次郎はなんだかんだで吉次をよく使っているし、それだけ彼の仕事振りだけは評価しているのだろう。 他に印象的だったのは、花ごろもの女将・お登世が探偵の真似事のようなことをする「逢魔ヶ時」。 ドラマではかたせ梨乃さんが演じているので脳内では違和感ないのだが、原作のお登世は尾行した女の行動に驚愕し戸惑っている。対決はするものの、そこから先は慶次郎にお願いというのがキャサリンとは違うところか。 ものすごい年の差カップルの共通点「綴じ蓋」は案外好きだったし、タイトルが皮肉な「不老長寿」は身につまされる。父親と許嫁、職人同士の意地に翻弄されながらも命を張って大切なことを娘が教えた「意地」は切なかったし、大切なものにはさまれて身動きできなくなっている「夕陽」では慶次郎と共に応援し、「箱入り娘」で下手人にもう一人の自分を重ねる辰吉に「おこまの道楽」で悪党に父の面影を重ねるお喋り娘には前を向いて欲しいと思う。 最後の「雨の寺」はまるで落語のようなトンデモキャラクターに慶次郎もついに降参。 慶次郎とお登世の中は公認となっているようだ。いつの間に?という感じだが、そこを詳しく描かないのが北原さん流の粋なのだろう。そうそう、辰吉がおぶんと接近していることが分かるのもこの作品からだった。禁断の恋というか、おぶんは遠慮しているようだが、慶次郎は既に知っている様子。こちらのカップルの行方も見守りたい。
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好きなシリーズ。 特に時代物だと、シリーズ物で登場人物がどう動くか、というのが楽しみであって、推理のネタとかそういったところを追及するものではないのかもしれないが、このシリーズはその「安定感」と「ストーリーの面白さ」どちらもクリアしている、と言ってもいいだろう。
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