ミステリ翻訳入門 の商品レビュー
翻訳論についての本には、著者の性格が如実にあらわれる。翻訳は簡単じゃないんだ、なめてもらっては困る、とはなから冷水を浴びせてくる人もいれば、出だしでは「翻訳でもちょっとやってみようか」って動機もいいんじゃない、などというおおらかな姿勢を見せつつも、その素晴らしい訳例で、オリーブ...
翻訳論についての本には、著者の性格が如実にあらわれる。翻訳は簡単じゃないんだ、なめてもらっては困る、とはなから冷水を浴びせてくる人もいれば、出だしでは「翻訳でもちょっとやってみようか」って動機もいいんじゃない、などというおおらかな姿勢を見せつつも、その素晴らしい訳例で、オリーブの実にフォークを押しあてるように、徐々に翻訳志願者をぐんなりさせる人もいる(著者はへばらせようとは決してしていないのだけれど)。田口さんは間違いなく後者のタイプである。後者の方が優しそうに見えて、よくよく考えてみると、残酷なのかもしれない。本書は翻訳は本当に奥深く難しく、一生をかけて取り組む価値のある面白い仕事だということを、直接的な言葉でなく、技術で示している。訳文解説も懇切丁寧。巻末にある翻訳に関する参考書、辞書のリストもとても役に立つ。少数言語の翻訳についてもこんな本があったらどんなにいいかと思う。
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