ゴヤ ロス・カプリチョス の商品レビュー
技量の確かな人が描く醜悪が切なく刺さる。 人の脳内で作られるイメージが真実である以上、ゴヤには世の中がこのように見えていたのだろう。
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たなぞうで見かけた江國香織さんの新刊本の表紙がゴヤの版画みたいだなぁと思っていたら、『気まぐれ(ロス・カプリチョス)』収録のものだと教えていただき、そこからたどり着いた本。『ロス・カプリチョス』と併せて、『戦争の惨禍』、『妄』、『闘牛技』が四大版画集とされる。副題にもあるとおり、...
たなぞうで見かけた江國香織さんの新刊本の表紙がゴヤの版画みたいだなぁと思っていたら、『気まぐれ(ロス・カプリチョス)』収録のものだと教えていただき、そこからたどり着いた本。『ロス・カプリチョス』と併せて、『戦争の惨禍』、『妄』、『闘牛技』が四大版画集とされる。副題にもあるとおり、寓意に満ちた80枚の版画である。醜怪・猥雑・シニカル・批判的・難解で、解説を読んでもどう捉えてよいのかよくわからない絵も多いのだが、一種、忘れられない印象を残す版画群だ。特権階級を驢馬に、芸術家を猿に例えた絵が数枚あり、腐敗した聖職者を揶揄するものも目を惹く。娼婦(この時代、つけぼくろをつけていたものらしい)を描いたものも多い。難解さは時代背景を知らない故もあるのかとは思うが、当時、27部しか売れず、発売を中止したというゴヤ自身の証言もあるようなので、万人受けするものではないのは確かなようだ。ゴヤという人は、狂気とすれすれの場所にいたのではないかなぁ。腹の中に白刃を飲まされたようなひやりと冷たい悪意を感じる。解説によれば技術的には卓抜したものだそうで、確かに白黒の濃淡だけでこんな世界が広がるのはすごいことなのかもしれない。12番「歯を盗む」、25番「水瓶を壊したばっかりに」、68番「すてきな先生」、69番「それ吹け」(これは強烈!)、75番「われわれを解き放してくれる者はいないのか」あたりが、個人的には特に印象に残ったもの。ちなみに冒頭の江國香織さん『真昼なのに昏い部屋』の表紙は、72番「おまえは逃れられまい」。注釈によれば「つかまえられたいと思っている女は、決して逃げはしない」。逃げつつも捕まりたがっているようにも見える女性の絵。*寝る前に眺めていたけれど、決して安らかな夢を誘うようなものではなかったです・・・。
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