蝶の舌 の商品レビュー
スペインの強い日差し…
スペインの強い日差しと、濃い影のコントラスト。色彩の鮮やかさや土の匂いが感じられるような、絵的な短編集です。全体的に心温まる物語ですが、時代の不穏さもそこはかとなく漂っていて考えさせられます。
文庫OFF
スペインの中の異境・ガリシアを舞台にした短編集。主にはフランコ独裁前後の時代に材を取っているのだが、どことなく無時代、無時間的な世界を追体験させられるような味わい。 軍靴が、古き良き時代を少年から無慈悲にむしり取るラストが切ない「蝶の舌」。 レジスタンスが周到に準備した橋の爆破計...
スペインの中の異境・ガリシアを舞台にした短編集。主にはフランコ独裁前後の時代に材を取っているのだが、どことなく無時代、無時間的な世界を追体験させられるような味わい。 軍靴が、古き良き時代を少年から無慈悲にむしり取るラストが切ない「蝶の舌」。 レジスタンスが周到に準備した橋の爆破計画が、不意に通りかかった自転車の少女によって狂う「スパッツをはいた娘」。 等々、佳作多々。
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“小さなものに輝きを―” 『蝶の舌』 内気な少年の心の支えとなった理科教師。しかし、やがて巻き起こるスペイン内戦の波が友情に影を刺し、彼らにもたらされる非情な現実。”今年はついに蝶の舌がみられそうだよ” 『愛よ、僕にどうしろと?』 スーパーで働く女性に思いを寄...
“小さなものに輝きを―” 『蝶の舌』 内気な少年の心の支えとなった理科教師。しかし、やがて巻き起こるスペイン内戦の波が友情に影を刺し、彼らにもたらされる非情な現実。”今年はついに蝶の舌がみられそうだよ” 『愛よ、僕にどうしろと?』 スーパーで働く女性に思いを寄せる悲しき銀行強盗の幻と現。穏やかな幕開けからの廿楽折れる展開は一読しただけでは理解に難いかもしれません。“僕は夏が来て最初に摘むサクランボの夢を見る” 『コウモリのために咲く白い花』 人に故郷があるとすれば、それは幼年時代のこと。そして、小さな悪が大きな被害をもたらすこともある。いつも、それを忘れないように。“だったら何故君も鐘をつかないのか?” その他『スパッツをはいた娘』『ハバナの大墓地』など、映画化もされた表題作を含む全16編の物語。スペインの陽光に漂う、形も輝きも異なる宝石たちが鏤められた宝箱。伝統的リアリズムを打ち破るような実験的文体も随所に見られる、スペイン文学若手リバスによる作品集。 そんなお話。
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映画化もされた表題作を収録した、スペインのガリシア系作家、マヌエル・リバスの短編集。 表題作『蝶の舌』 スズメと呼ばれる少年が、ある先生の薫陶をうけて詩や科学の世界を垣間見ます。 それは蝶に蜜を吸うための細長い舌があり、メスの気を引くために巣に蘭の花を飾る鳥がいる世界です。 しかし、先生は無神論者と噂され、世の中が自由を許さなくなると、先生は逮捕されてしまいます。 「やあ、スズメくん、今年はついに蝶の舌が見られそうだよ」 先生を乗せた護送車に罵声を浴びせる群衆のなかで大人たちの政治的状況を理解できないままに、教えてもらった鳥や蝶の名前を叫ぶクライマックスは切ないです。突然暴力的な状況が人生に介入する社会が続く限り、蝶の舌を見ることは叶わないのでしょうね…。 他にも恋する強盗の不思議な人生を描いた『愛よ、僕にどうしろと?』、フェルメールの絵画をめぐる小品『牛乳を注ぐ女』など、佳作ぞろい。 しかし、この作家はきっと長編で本領を発揮するタイプじゃないかな。翻訳されていないらしく、残念…。
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スペインといえば情熱の国だなぁ、なんてひどい偏見を持ちつつ、しかしあっち系の小説は割と暗いのはなぜか。実は皆暗いのか。芸術家肌の人間は皆暗いのか。それはさておき短編でもやっとした話だと想像力をかきたてられる。そのもやもやが不思議な余韻を残すというか。短編にもいろいろあるけど、これ...
スペインといえば情熱の国だなぁ、なんてひどい偏見を持ちつつ、しかしあっち系の小説は割と暗いのはなぜか。実は皆暗いのか。芸術家肌の人間は皆暗いのか。それはさておき短編でもやっとした話だと想像力をかきたてられる。そのもやもやが不思議な余韻を残すというか。短編にもいろいろあるけど、これはもやもやが悪くない系かな。
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蝶が羨ましいと思った。よそいきの服を着て世界を飛び回り、シロップがたっぷりの樽が置かれた居酒屋に立ち寄るように花から花へと留まってゆく。蝶の舌は時計のぜんまいのように渦巻きになっていて、気に入った花を見つけるとそいつを伸ばして萼に差込み、蜜を吸う──。 先生は学校に顕微鏡が届くの...
蝶が羨ましいと思った。よそいきの服を着て世界を飛び回り、シロップがたっぷりの樽が置かれた居酒屋に立ち寄るように花から花へと留まってゆく。蝶の舌は時計のぜんまいのように渦巻きになっていて、気に入った花を見つけるとそいつを伸ばして萼に差込み、蜜を吸う──。 先生は学校に顕微鏡が届くのを随分前から待っていた。その道具では小さな物が大きくなる。蝶の舌も見ることができる。生徒たちも…とりわけ先生のことが大好きで、一番弟子だった僕も楽しみにしていた。けれど1936年7月のあの日、嵐が来て、先生は行ってしまった。父は泣きながら先生を罵倒し、僕は怒りをこめて呟いた。かつて、先生が教えてくれた、鳥や蝶の名前を。 内戦によって共和制が崩壊する直前のスペイン西北部、ガリシア地方を舞台に、”スズメ”と呼ばれた小さな少年と教師の交流を描く表題作の他、時代や年代の異なる人々を主人公に人間の感情を淡々と浮き彫りにする全16篇の小説集。
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どう読んでも映画の方が名作だったという感じが強いけれど、そもそも比較するものではないような、非常に慎ましい短編集です。基本的には。 映画化された三篇は本当に古典的な趣のある、堅実な作品。題材となるものがささやかで、それが物語に乗ってのびのびと展開していくところに感動するという、王道のカタルシスみたいなものがありました。その決して大きくないスケールと、それでも感じられるのびやかさとに、書き方のヒントもたくさんもらえたような気がして、個人的にはすごく元気の出る短編だった。 ただ、他の作品が結構曲者だったりもする。 やはり基本的な小説に対する姿勢、小説の題材選びに対する姿勢は不変なのですが、料理の仕方がかなり変則的で、ラテンアメリカをよく勉強してそれを取り込んだ、と思える作品や、それ以外の辺境から出てきた小説と非常に近い雰囲気を持つ作品があって、中には一見何が起こってるのかよくわからないものすらある。多分その混在は中世以降のヨーロッパの文化の一つの源泉でありながら、同時にまた地方文化が非常に強い地域であり、さらにその地方文化が第二次大戦後も続いた封建的な政治体制によって抑圧されてきたという、スペインの複雑な歴史と関係しているのでしょうが(ちなみに著者はスペインの中でも文化的特色の強い地方出身で、言語も公用語とは違う地方語を用いているそうです)、しかしこれはちょっと面食らう。単純に多彩な作品が楽しめると思えば、問題はないのだけれどね。びっくりしました。 しかしまあ手を変え品を変えという言葉がありますが、品の方がそこまで変わらないのにそういう感覚を抱かせるという点で、珍しくもあるし、そしてまた優れた短編集だと言えるのではないでしょうかね。結局元気をもらえるということでは手を変えまくるのも勉強になるし楽しかったしで、良い読書経験でした。
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