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対訳でたのしむ通小町 の商品レビュー

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2017/12/11

思い出したように能シリーズ。 能はまったく初心者なのですが、観劇の機会があったときなどにストーリーを復習・確認しています。 詞章、対訳、基礎知識がコンパクトにまとめられた<対訳でたのしむ>シリーズ(檜書店)を愛用していますが、初心者向けとしては適度なボリュームで、なかなかよいので...

思い出したように能シリーズ。 能はまったく初心者なのですが、観劇の機会があったときなどにストーリーを復習・確認しています。 詞章、対訳、基礎知識がコンパクトにまとめられた<対訳でたのしむ>シリーズ(檜書店)を愛用していますが、初心者向けとしては適度なボリュームで、なかなかよいのではないかと思います。 「通小町」は、小野小町のと深草少将の伝説を元にしたお話です。 絶世の美女、小野小町を恋い慕い、しきりに言い寄る深草少将。小町はこれを疎ましく思い、「百夜、私のもとに通い続けたらあなたの意のままになりましょう」と告げます。少将は小町の心を射止めんと、九十九夜まで通いますが、百夜を目前にして亡くなります。いわゆる「百夜通い(ももよがよい)」です。 「え、毎日通うのが死ぬほど大変なことなのか・・・?」とか「小町も大概意地悪すぎやろ!?」とかまぁツッコミどころはいろいろある気もしますが、小町が並外れた美女で、言い寄るものも多かったことを示す伝説と思えばよいでしょうか。 能の「通小町」は「百夜通い」の「後日談」的なお話です。 山里で修行に励む僧のもとに、毎日、1人の女が訪ねてきます。僧が不審に思って身の上を尋ねると、「小野の・・・」と言いさして、市原に住む老女だが菩提を弔ってほしいと告げ、消えてしまいます。さては伝説に聞く小野小町かと覚った僧は、成仏させてやろうと市原野を訪れます。 僧の前に小町の亡霊が現れ、「ありがたい、これで成仏できます」と感謝しますが、そこへ現れるのが深草少将の亡霊。1人だけ成仏するなど許さないと鬼のような形相で引き留めます。死してなお現れるストーカーというところでしょうか。 僧は2人の間のいきさつを詳しく聞き、小町の亡霊と鬼の姿の少将の亡霊が寸劇を演じて見せます。劇としての能ではこのあたりが見せ場なのだろうと思います。 最後は現代の感覚ではちょっと驚くような、取って付けたような結末です。生前の2人の過去の物語がクライマックスを迎えるところで、突然舞台は現在の亡霊の2人と僧がいる場面に戻り、あることが機縁となって2人ともに成仏するということになります。 「えっと結論は仏にすがれということなのか」というところですが、そもそもこの話は唱導僧が原作者であるという話があります。唱導とは、仏法を説いて衆生を導く語りもののことです。まぁとにかく仏さまのお導きで皆が救われるのだ、ということが言いたいわけですから、現代の感覚ではいささかこじつけのように感じられても仕方がないのかもしれません。 「通小町」というのはちょっと不思議な題名で、小町が僧の元に通うことを指しているのか、少将の「百夜通い」を示しているのか、私にはよくわからないのですが、何となくふわりと2つの意味を重ねて、作品の奥行きを示しているようにも思います。 いずれにしても、恋の妄執とはそもそも理性では割り切れるものではないのだとしたら、現世でも報われず、亡霊となっても満たされることのないほどの執着は、仏さまにでも救ってもらうよりほかないのかもしれません。 そんなにも想い想われることは、類い稀なことなのでしょうが、果たしてそれは幸せなのでしょうかね。

Posted byブクログ