日本近代思想の相貌 の商品レビュー
近代日本の思想家九人について、彼らにおいて「知」とその外部がどのように関係しているのかを論じた本です。とりあげられているのは、綱島梁川、上田万年、早川孝太郎、高山樗牛、橘孝三郎、長谷川如是閑、清沢満之、宮沢賢治、深沢七郎です。 上田万年に関しては、日本の風光明媚な光景をナショナ...
近代日本の思想家九人について、彼らにおいて「知」とその外部がどのように関係しているのかを論じた本です。とりあげられているのは、綱島梁川、上田万年、早川孝太郎、高山樗牛、橘孝三郎、長谷川如是閑、清沢満之、宮沢賢治、深沢七郎です。 上田万年に関しては、日本の風光明媚な光景をナショナリズムへと汲みあげることになった志賀重昴の『日本風景論』の果たした役割になぞらえつつ、上田の努力による「国語」の創設と、ナショナリズムとの関係について論じられます。 長谷川如是閑を論じた章では、彼の消極的な戦略が、暗い時代における彼の日本文化研究を生んだことに触れ、社会全体に根を張った風俗、習慣の独自性を見ようとする彼の手法が、「権力への抵抗と言うよりも、権力の側が用意したパイプを通じて吸い上げられていくものと同じであるかもしれない」という危険性を帯びていることが指摘されています。 宮沢賢治と深沢七郎については、近代的なヒューマニズムに基づく「知」の限界を超え出ていく思想が、この二人の文学者のうちに見いだされます。とくに深沢に関しては、柳田国男の「常民」と対比することで、彼の描く「庶民」の底知れない深みに光を当てようとしています。
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