単独密偵(上) の商品レビュー
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<上下巻を通してのレビュー> 極秘諜報機関(ディレクトレイト)を引退し、大学の教壇に立つニック・ブライソンを突然CIA副長官が訪れた。 かつて所属していた機関が実は反米工作を行っていたこと、親友や妻も自分を欺いていたことを知らされ、衝撃を受けるニック。 彼はCIAの依頼を受けて、機関の陰謀を暴くべく、武器商人の所有する大型貨物船に単身で潜入した---。 ラドラムが描く現代情報社会の底知れぬ暗部! 15年も働いてきた所属機関が「反米工作機関」であること、そして自らの人生そのものがその組織によって決められていたと、ある日突然、CIA副長官のハリーに告げられたら…… 決定的な証拠はないものの、それを反証するだけの証拠もない。しかし、疑問だけは奥深く残る… 『自分の感を信じろ!』というかつての上司からの教えだけを頼りに、自らの疑問と怒りの感情を解消するために、再び動きだしたニック。 核心に迫りそうになると誰かの命が消えたり、信じていた人に裏切られ続けるなんて耐えられない。 (何が真実なんだ? 誰を、何を信じればいいんだ?) 真実への鍵はいろんな場面にそれとなく散りばめられているが、徹底的に壊されたジグソーパズルをもう一度複製していくような状況の中、意外な状況下で唐突に現れたかつての上司ウォラー。 ハリーが語ったことが全くの嘘であることをニックに告げるウォラー。 ウォラーに対する疑惑を完全には捨て去ることの出来ないまま、再び(ただし別の方向へ)動きだしたニック。 そして核心に迫ったときにニックが目にしたものは……ウォラーはダブルであるという事実。 何度も何度も疑心暗鬼の状態に追い込まれながらも、大切な人と自分の命を守り切ったニックだが、ウォラーは再び、意外な形で姿を見せる…… え? え? と何度も反芻しました。 世の中って実はこんなにも欺瞞に満ちているものなのではないだろうかと、心底思わされました。 2度の世界大戦と米ソの冷戦が終わった今でも、水面下では、諜報機関と企業がそれこそ国家以上の権力を手にし、人々のプライバシーを全く無視した「安全」のために奔走しているのではないかと思ってしまいます。 目まぐるしく変わってゆく状況にもすべて緻密な伏線が用意されており、さすが巨匠の作品だと思わせてくれる一作でした。
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