水の自然誌 の商品レビュー
貴重で有限な水の不思議なメカニズムをわかりやすく描写。全米で話題の「水の本」。 「BOOKデータベース」より もっと一般向けの本かと思ったら、結構専門用語も出てきて、本格的な内容.水文学という水循環を扱う専門書と一般書の懸け橋になるような本.
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田中長野県知事が「脱ダム宣言」をしたことによって大騒ぎになっているが、古くは武田信玄の「霞堤」、加藤清正の「越流堤」と、水の流れを川の中に閉じこめるのでなく、部分的に遊水池に放流する治水方式はむしろこの国では主流だった。曲がることが自然な川の流れを人為的に真っ直ぐに変え、高い堤防...
田中長野県知事が「脱ダム宣言」をしたことによって大騒ぎになっているが、古くは武田信玄の「霞堤」、加藤清正の「越流堤」と、水の流れを川の中に閉じこめるのでなく、部分的に遊水池に放流する治水方式はむしろこの国では主流だった。曲がることが自然な川の流れを人為的に真っ直ぐに変え、高い堤防で一気に海に流し込む高水式堤防が主流になったのはたかだかここ百年くらいのことに過ぎない。人間の勝手で、自然を作り変えることの傲慢さにやっと気がついただけのことで、むしろ遅きに失したくらいである。さて、ダムも湖も水を貯えているのだから同じようなものだと思っていたが、実は、まったく異なるということをこの本ではじめて知った。「水を充たしたばかりの貯水池は植物遺体を大量に含んでおり、それらを棲み家として、土壌中の水銀を吸収する能力を持つ細菌が急速に増殖する」。細菌によって形を変えられたメチル水銀は食物連鎖の中に入り込み、結果的に魚の体内に取り込まれた時点で生物濃縮の作用により100万倍の濃度になるという。現にカナダではカワカマスを常食していたネイティブアメリカンの中に体内の水銀の量が急激に増加した種族が出た。腐敗した植物質を大量に含む貯水池のもう一つの問題点は、二酸化炭素とメタンを大量に大気中に放出していることである。水力発電用のダムが火力発電機と同量のガスを排出するとしたらこれ以上の皮肉はない。しかし何より驚いたのは、貯えられた水の重量が地殻に影響を与え地震を誘発することや、地軸を傾け、地球の自転速度に影響を与え続けていることである。それらが、今すぐ、地球をどうにかするといっているわけではない。筆者の文章は科学者らしく冷静である。それだけに、ふだんあまりにも意識することのなかった水についての新しい知見はものを見る眼を変えてしまう。雲や雨についての記述も新鮮な指摘にあふれ、ナチュラリストでなくても充分楽しむことができる。是非手にとって読まれることをお勧めする。
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