ロンドン(下) の商品レビュー
火の鳥形式のオムニバス。 とにかく内容が濃い。 近代だけで、椿井文書と南方熊楠に司馬遼太郎を掛け合わせたくらい濃い。 この形式のパロディで誰か日本版、もしくは地元版を作ってくれないだろうか…。
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久しぶりに持ち重りのする本である。A5サイズ、上下二分冊、各巻二段組みで500頁をこえる。このクラスの本になると寝転びながら読むのは無理。書見台で読むには厚すぎて頁が押さえきれないから、片手で背を支え、もう一方の手でページを繰るという基本的な読書スタイルが様になる。肘掛け椅子に納...
久しぶりに持ち重りのする本である。A5サイズ、上下二分冊、各巻二段組みで500頁をこえる。このクラスの本になると寝転びながら読むのは無理。書見台で読むには厚すぎて頁が押さえきれないから、片手で背を支え、もう一方の手でページを繰るという基本的な読書スタイルが様になる。肘掛け椅子に納まって膝掛けをし、スタンドを引き寄せると後はひたすら読んだ。 紀元前54年、カエサルの指揮するローマ帝国軍の侵攻から始まって1997年の現代に至るまでのロンドンの街に起きた歴史上有名な事件を、10組の家族、150人以上の登場人物の行動で織りなす一大大河ドラマである。リチャード獅子心王やヘンリー八世、エリザベス女王などの王侯貴族は言うに及ばず、ジェフリー・チョーサーやシェイクスピアなどの文人、クロムウェルやトマス・モアなど、イギリスの歴史に名を残す有名人が総出演するという豪華な顔触れに、何はともあれ、イギリス好き、歴史好きの人なら巻を措く能わずという勢いで読みふけること請け合いである。 狂言回しをつとめるのは前髪に一房の白髪が混じり、指の間に水掻きを持つという遺伝的特徴を持つダゲットの一族だが、歴史の大海の中で浮き沈みを繰り返す何組かの家族が、互いに縁を切ったり結んだりしながら2000年という時代を生き抜いていく。農奴から伯爵、ヴァイキングの子孫からユグノー教徒まで、階級も人種も宗教も異なる人々が、ロンドンという街を舞台に陰謀をたくらみ、裏切りにあい、使命感に燃え、王のため、信じる神のため、そして愛する人のために、ある時は大火の中をまた砲弾の嵐の中を懸命に生きていく。 漠然とアングロ・サクソンの国だと思い込んでいたイギリスだが、二千年の長きに及ぶ物語を読み終えて感じるのは、国家とか人種とかいうものの出自の出鱈目さである。変わらないのはテムズの流れと、大河のごとくすべての人種や宗教を呑み込んでしまうロンドンという土地のみ。そして、その土地に流れ込んでくる人間の、ある者は金を、またある者は家柄を頼みにするという違いはあれ、誰もが生きるということを疑わず、そのために悪戦苦闘する姿。なるほど、イギリス人というのは人間好きであるわい、とあらためて思った。 文章は平易で読み易く訳文もよくこなれている。厖大な登場人物も、各一族にはそれぞれ特徴的な性格づけがなされているので、感情移入もスムーズに行える。歴史的なエピソードにも工夫が凝らされていて飽きさせない。いうならば、大人が本を読む楽しみを知っている国の読み物である。傍らの小卓子にお気に入りの飲み物を用意し、暖炉はなくともストーブの一つも近くに置き、冬の夜のつれづれを慰めるにはもってこいの一冊。(上巻も含む)
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