優生思想の歴史 の商品レビュー
「優生学と人間社会」に続き、優生学2冊目。 タイトルにあるとおり優生思想の歴史が如何に生まれ、発展してきたかについてまとめた歴史書。 訳本だったが翻訳はわかりやすく、詰まることもなく読めたが、構成としては「著者の明確な主論を展開していく」というよりは「優生思想に携わった人々の行...
「優生学と人間社会」に続き、優生学2冊目。 タイトルにあるとおり優生思想の歴史が如何に生まれ、発展してきたかについてまとめた歴史書。 訳本だったが翻訳はわかりやすく、詰まることもなく読めたが、構成としては「著者の明確な主論を展開していく」というよりは「優生思想に携わった人々の行動や発言を綴る」という形式であり、人名が多数登場するので途中で心が折れそうになったものの、事前に「優生学と人間社会」で優生思想史については理解できていたため、なんとか読み切れた。 対象としては主に英・米国をメイン。 前半部分では当時の優生思想活動家が如何に議論を展開し、国家という巨大な枠組みで優生学を展開しようとしたか、そのロビー活動なども詳細に述べられており、後半では戦後におけるアメリカを舞台に60-70年代の断種が継続された様子や、発展途上国における強制断種の様子が生々しく描かれている。 特に後半部分の戦後アメリカでの断種の濫用(表立って断酒を国策として上げていないのに何故ここまで実施されたのか?)、インドや中国、プエルトリコやシンガポールで採用された国家的優勢政策の背景が見られたことは非常に勉強になった。 一方で批判点を挙げるとするならば、この本は「優生思想の歴史」というよりは「強制断種の歴史」の方がタイトルにふさわしいのでは、ということ。 確かに強制断種は優生思想を体現した、社会的に許されざる行為だが、それだけでは「過去に会った凄惨な出来事」の範疇を超えることはできない。 大事な事は19世紀に芽生えて以来、ここまでの惨状をもたらした優生「思想」に焦点を当てて、「今」同じことが形を変えて起きていないか?という批判的な目線を持つ事だから。 確かに歴史書のセオリーとして著者の意見はなるべく挟まず、出来事や事実を羅列していく事は非常に重要なのだけれど、語手である以上主観は存在するし、どのような角度で事実を見ているのか?は常に問われる。 だからこそ「優生思想の歴史」というのであれば、何故福祉国家の北欧で優勢政策が採られたのか、ナチスの残虐行為があったのに何故日本では戦後に優生保護法が出来、1996年まで続いたのか、そもそもナチス以前のワイマール共和国において優生思想の下地ができていた、そして現在私たちが直面している新しい優生思想としての出生前診断をどう考えるか? について言及して欲しかった。 「今」を問うために過去を学ぶのだから。 これらはいずれも「優生学と人間社会」で出た重要トピックであり、この本では全く触れられていないことについて物足りなさがあった。 但し、「大事なポイントに触れていないから読む価値がない」という意味ではない。 上述の後半部分の内容は非常に参考になったし、膨大な資料を当たって本書を作成されているので、その点だけでも読む価値は多分にある。
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