器用な痛み の商品レビュー
「ああ、暗いなあ、失敗したかなあ」と思いながら読み始め、徐々にひきずりこまれ、「うーん、面白かった」と読み終わりました。 時は18世紀イギリス。 「痛み」を感じない男、ジェイムス・ダイアの死の場面から物語は始まる。 そこからいったん、死の一年前に場面が移ったあと、一気に時...
「ああ、暗いなあ、失敗したかなあ」と思いながら読み始め、徐々にひきずりこまれ、「うーん、面白かった」と読み終わりました。 時は18世紀イギリス。 「痛み」を感じない男、ジェイムス・ダイアの死の場面から物語は始まる。 そこからいったん、死の一年前に場面が移ったあと、一気に時間は遡る。 私生児として生まれ、なかなか言葉を発せず、子どもらしからぬ表情で、戸惑いと偏った愛情に囲まれて育った幼少時代。 家を出て、その特異な体質を利用した怪しげな見世物で旅をして回った少年時代。 そこから、さらわれるように連れて来られた不思議な館。人間の体への異常なほどの関心。ならず者の集まりである海軍に飛び込み、医師としての活躍を始める青年時代。 「あの手先の器用なこと。貴婦人の手に、鷲の目、そして心は・・・ふうむ、心はどうなっているのかね?」 ブラックジャックばりの天才的な腕前を持つジェイムス。 痛みを感じない彼は、自分の頭のケガさえも、合わせ鏡を見ながら平然と縫い合わせる。 肉体的な痛みを感じない彼は、同時に感情的な痛みや愛情、喜びなどもまったく感じない心の持ち主でもある。 そんなジェイムスが「痛み」を取り戻したときそこに待ち受けていたものは――というお話。 イギリスの近代化が始まる頃のお話って基本的に暗い色彩。 その上、痛々しい、血みどろな場面も多くて、映像化されたら直視できないシーンの連続かも。 それでも、一人の特殊な男の、波瀾に富んだ人生を、緊迫感と謎めいた雰囲気で描いていて、読者の目をひきつけ続ける力(パワー)のある小説です。
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