誰も知らない、もう一つのレイテ沖海戦 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
総評としては、軍事関係に明るくない読者でもそれほど苦も無く読め、かつそれなりの知識を得ることができるも、全体的に少々癖のある作品だった。 本書は大きく分けて二つの構成になっており、前半部分は海軍での下仕官の生活や、艦艇における各種部署の役割、兵装についてなどを、軍事に明るくない人にも分かり易く説明している。レイテ沖での戦いの記録を期待していただけに、少々面食らったが、結果としてはこちらのほうが興味深く、また楽しんで読めた。 後半部分は表題にもある通り、レイテ沖での駆逐艦初月の活躍が書かれているが、特に最期の海戦の部分においては、著者の想像による描写が多く、小説のような雰囲気だった。乗員のほとんどが戦死し、当時の情況がわからない以上致仕方ないことなのかもしれないが、その演出を過剰と見るかどうかなど、好き嫌いがわかれそうな感じがした。 また、随所にて海軍司令部を糾弾する描写があり、また一方で下仕官や遺族に強い同情、あるいは美談として取り上げられている。これは著者の境遇―自身も兄が初月の乗員だった事―のため仕方ない点もあるが、ここも癖のある部分だと言えるだろう。個人的には、その矛盾ともいえる思いが、実際に戦争を経験した者の複雑な心境を表しているようで、良かったと思う。 さらには、細かい事になるが、文章構成がすこしわかり辛い感じがした。特に作中しばしば行われる引用は、論文製作の際のルールに則っておらず(「」で囲む等)どこからどこまでが引用なのかパッと見では判別しづらくなっており、多少のストレスを感じさせた。しかしながら、その洗練されていない文章が、また文章に生生しさを与えていると言えなくも無く、ここも好みがわかれそうな部分であると感じた。 下仕官の生活や、各種兵装についてなどの部分は分かり易く書かれていたので、これらのような癖が少々目立つ感じになってしまい、全体として少しチグハグな感じがした。割り切ってフィクションとして読むのがいいのかもしれないが、著者や戦死者の遺族のことを考えると、それも失礼なような気がして、なんとももどかしい読後感があった。
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