蔓の端々 の商品レビュー
伏線の回収はされていて、最後にはスッキリとしたが、現世だけでなく、生まれ持った宿命や怨恨に左右されていく時代背景や誰も幸せでなく思えてしまう刹那が辛過ぎた。読みやすさはある。
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青年武士・禎蔵にとってはある日、武芸の友人・礼助と幼い頃から思いを寄せた隣の八重の突然の失踪。八重の父の領外追放もあり、大きな虚脱感と不可解な気持ち。そして藩の上層部における権力闘争に巻き込まれていく武士たちの悲しい末路。乙川のいつもの美しくも哀しい世界ですが、今回はあまりにも救いがない悲惨な最後に思えました。最初の失踪の謎がだんだん大きくなっていき、最後にその謎が分ったとき、あまりにも大きな勘違いに愕然とし、幼い日々からの思いが否定されてしまうような痛切な淋しさを感じさせてくれました。
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内容(「BOOK」データベースより) 7歳で父の組子・瓜生仁左衛門に預けられた禎蔵は、剣術に自力で這い上がる道を見出し、出世した。しかし、否応なく藩内の大きな力に巻き込まれていく下級武士の悲哀を身近に感じながらも、幼なじみの失踪と、父の死の謎を問い続ける。藩権力に翻弄される下級武士たち。その中で、若き剣術師範は、手探りしながらも誠実に生きようとする。待望の書下ろし長編時代小説。 初めに謎をもうけて、読者を引き込む手を使っていますが、 その謎への答えが、 主人公が「幼稚」で「馬鹿」だったので、 幼馴染で妻にしようとしていた女性の心が全くわかっていなかったというのには、がっかりしてしまいました。 「なぜわしに隠していた」 「しかし、言ってくれていれば、 ひとこと打ち明けてくれれば、 あるいはこんなことにならずに済んだかも知れん、 そういう別な道もあったのではないか」 「いいえ、それは・・・・」 八重は言いかけて、 いったん禎蔵に向けた眼をゆっくりと逸らした。 「いまさら申し上げても仕方のないことですが、 わたしはあなたさまに嫁ぐと決めて父母に胸のうちを打ち明けたことがございます、 ですが、 その翌日、 あなたさまはわたくしの思いついた気持ちをお笑いになりました、 あのときからわたくしはあなたさまに嫁すことを諦めておりました」 「あのころの八重はまだ子供だった」 「いいえ、 わたくしは女子の眼でしっかりとあなたさまを見ておりました、 あなたさまがわたくしを見ていなかっただけです」 「・・・・・・・・・」
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乙川優三郎のこの小説は、藩内のお家騒動と、それに巻き込まれた下級武士の悲哀や人間的成長を描いている点で、藤沢周平の「蝉しぐれ」との共通性を感じながら読んだ。 だが、読みすすむうちに「蝉しぐれ」とは違った味わいに、次第に物語世界へと引き込まれていった。 主人公は剣術で身を立てよう...
乙川優三郎のこの小説は、藩内のお家騒動と、それに巻き込まれた下級武士の悲哀や人間的成長を描いている点で、藤沢周平の「蝉しぐれ」との共通性を感じながら読んだ。 だが、読みすすむうちに「蝉しぐれ」とは違った味わいに、次第に物語世界へと引き込まれていった。 主人公は剣術で身を立てようと武芸に励む下級武士、瓜生禎蔵。 いずれは隣家の幼馴染、八重を妻にと考えていたが、ある日八重は親友の黑﨑礼助と共に姿を消してしまう。 その失踪の裏に家老暗殺というお家騒動の影が次第に浮かんでくる。 そして藩の政権交代にからんで剣術師範として取り立てられた禎蔵も、否応なく政争の渦に巻き込まれていくことになる。 「蔓の端々」という題名は、藩政をめぐる争いのなかで、無残に使い捨てられていく無名の人間たちのことを指している。 歴史の裏にはそうした人間たちの悲哀が隠されているのが常である。 だがそれは悲哀だけで終わるばかりではない。 懸命に生きることで人間的な成長を遂げ、揺るぎない生き方を見つけることもある。 主人公の瓜生禎蔵もそうした人間のひとりである。 悩み、苦しみながらも、過酷な運命のなかで自らの生きる道を見出していく。 「しかしそう悪いことばかりではないぞ、人間は締めつけられるほど強くなるらしい、中には潰れてしまうものもいるが、いつまた葛のように強い芽を出さぬとも限らぬ、世の中にはそういう人間がひしめき合っている」 こうしたセリフに作者の思いが込められているように思う。 切なさのなかに明日への力を感じさせる乙川節は、この小説でも十分に味わうことができた。
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