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アメリカの鳥たち の商品レビュー

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2009/10/04

アビーは自分のグラスを手に持った。 「最悪のことはつねに過去のものとなり、暖かい太陽がいつも両腕に降りそそぎますように---」(それ以上望んだら罰が当たる) 「芸術をあきらめない芸術家について、わたしなりに都合のいい原則があるの。鮮やかな想像力に絶対に背を向けてはいけないっ...

アビーは自分のグラスを手に持った。 「最悪のことはつねに過去のものとなり、暖かい太陽がいつも両腕に降りそそぎますように---」(それ以上望んだら罰が当たる) 「芸術をあきらめない芸術家について、わたしなりに都合のいい原則があるの。鮮やかな想像力に絶対に背を向けてはいけないっていう原則が」(ここにはああいう人しかいない) 「いい人たちだったね。あの人たちの話を聞いて、ずいぶんなぐさめられたな」と彼は言う。 なぜこの人はこうやっていつも仲良しクラブを作るのだろう? どうして苦しみあう仲間になぐさめられるのだろう? 死と向かい合い、死と闘っているときぐらい、この家の人間はお高くとまっているべきではないか。 「みんないい人だったし、それぞれに勇敢に闘ってきた物語があってさ」彼は話つづける。ー(略 「みんな同じ船に乗っていて、みんな一緒に闘っているんだと思うと、なぐさめられたな」 だが、だれが好きこのんでこの船に乗るというのか、母親は思う。この船は悪夢の船だ。その進む先を見るがいい。銀色と白の部屋だ。そこでは視力と聴力と触り触られる能力がいまにも消滅しようという時に、わが子の死を見なければならない。 ロープ! ロープを持ってきて。 「わたしたちはべつの道を行きましょう」母親は言う。「この船に乗るのはごめんだわ」ーー(略)ー 「生きているかぎり」母親はエレベーターのボタンを押す。上がりか下がりか、だれもが最後はこうして去ることになる。「わたしは二度とあの人たちに会いたくない」(ここにはああいう人しかいない) ************訳者あとがきより************* これまでもムーアは、心に潜む悲しみをウィットやジョークで幾重にもくるんで表現してきました。本書でもその悲しくておかしい世界は健在ですが、言葉はひときわ鋭さを増し。心の奥深くまで切込んできます。 ムーアの言葉の針は、ときには心のひだにこっそりしまわれていた悲しみをつつき、ときには笑いの発作をひきおこします------ムーアの作品を読んで、心の秘密を探り当てられたように感じたかたも大勢いらっしゃるのではないでしょうか。 Birds of America というタイトルは、19世紀の自然学者ジョン・J・オーデュポンの描いた有名な鳥類図鑑の書名でもあります。鳥類の観察と自然保護の先駆者であるオーデュポンは、北米の鳥類すべてを写実的に描くことにすさまじい情熱を傾け、1827年から38年にかけて大部の「アメリカの鳥類」を出版しました。 その細密な絵はいま見ても非常に美しいものばかりです。 オーデュポンは鳥の死体を机のうえに置き、あたかも生きているようなポーズをとらせて写生しました。けれどもそのポーズは自然観察に基づいたものではなかったため、描かれた鳥達はよくみると不自然な格好をしているものが少なくありません。 フラミンゴの首は無理な角度に曲がっており、空を飛んでいるはずのタカの翼は風をとらえていません。一見美しいのに、じつは 不自然な姿勢を強いられている鳥達は、ムーアの作品の主人公たちと通じあうところがあるように思います。 (個人的に抜粋)

Posted byブクログ