釣り上げては の商品レビュー
詩集『釣り上げては』 【2000年初版】 著者 アーサー・ビナード 1967年、米国ミシガン州生まれ。ニューヨーク州のコルゲート大学で英米文学を学び、卒業と同時に来日、日本語での詩作を始める。 【巻末の著者略歴より】 2001年 本書で中原中也賞 2005年『日本語ぽこりぽこ...
詩集『釣り上げては』 【2000年初版】 著者 アーサー・ビナード 1967年、米国ミシガン州生まれ。ニューヨーク州のコルゲート大学で英米文学を学び、卒業と同時に来日、日本語での詩作を始める。 【巻末の著者略歴より】 2001年 本書で中原中也賞 2005年『日本語ぽこりぽこり』講談社エッセイ賞 2007年『ここが家だーベン・シャーンの第五福竜 丸』日本絵本賞 2008年『左右の安全』山本健吉文学賞、などの受賞作の他にも作品が多数掲載されています。 表紙画は、著者の亡き父の恩師の石版画、 エミール・ウェディッジュ作『この日の糧』 Emil Weddige『GIVE US THIS DAY』。 ひだまりトマトさんの本棚で知りまして、ずっと気になっていた一冊です。 アーサー・ビナードさんの言葉のセンスやリズムが心地よくて、ウィットに富んだエッセイのような詩集になっています。 著者は、六年生の頃に、飛行機の事故でお父様を亡くされています。(「タックル」で触れています。) 表題作の「釣り上げては」では、幼き日に父に連れられてきたミシガン州オーサブル川のほとりの釣り小屋が、詩の中に描かれています。 父の形見となった、釣り小屋のコーヒーカップ やゴムの胴長、折り畳みの簡易ベッド。 “ものはすこしずつ姿を消し 記憶も いつしょに持ち去られて行くのか。“ ー “記憶は ひんやりした流れの中にたって 糸を静かに投げ入れ 釣り上げては 流れの中へまた 放すがいい。“ 大切な人との記憶は、大切な想い出となって、 ふとしたときに、何度も何度も蘇るものですね。 「自己ベスト」では、多摩川の土手に自転車を止め、砂利の上に腰掛けていると、三人の探検隊(子供たち)が現れます。 ー “自転車を見て、こっちを見て少しびびり、でも話したそうな感じだから、「アメリカからもってきたチャリンコだ」とぼくは指さしていう。口々に「カッコいー」と、ほめてくれる。マサヒロとフミオとケンジ。みな小学四年生。“ 夏休み手前の楽しい出会いですね。笑 フミオが突然、水際に走り、4人で「石飛ばし」が始まります。フミオ君とマサヒロ君が二弾、三弾という成績の中、気になるのはケンジ君です。 ー “ケンジのヤツはデッカイ石ばかり選び、おかしな投げ方もするから、飛ばずにいつも沈んでしまう。 でも大きな声で、「一弾!」と。“ ー ケンジ君はこの後も成績振るわず、チカラが入りすぎて片足がドボンしてしまいます。ケンジ君のために「一弾」をひとつ放って本気になる、ミシガン州オーサブルでは昔はもっと飛ばせたはずの著者。 著者と子どもたちとの夏の思い出がユーモラスに綴られ、優しい一文で締められています。 32篇、その詩の一つ一つに著者の持つスマートな空気感が漂っています。どれもいいんです。 表題作や「自己ベスト」の他、「空き缶と引き換える詩」や、「リンゴ園の宇宙人」も印象深く残りました。 「歌舞伎座で」では、休憩時間にソファーに座ろうとする妊婦さんの動きが、ゆっくりとして、歌舞伎の演目と重なるような動きが感じ取られます。 読後感が、ほんのりと心地の良い詩集でした。 (ひだまりトマトさん、やっと読めました。笑 感想が遅くなってしまいました。ありがとうございました。)(*´︶`*)
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アーサー・ビナードさんの詩集ですね。 アーサー・ビナードさん(1967年、アメリカ・ミシガン州生まれ)詩人、俳人、随筆家、翻訳家。広島県在住。 この詩集は、中原中也賞を受賞されています。 2000年7月初版です。 『来日して、足かけ十年。日本語で少しずつ書くようになってからは、八...
アーサー・ビナードさんの詩集ですね。 アーサー・ビナードさん(1967年、アメリカ・ミシガン州生まれ)詩人、俳人、随筆家、翻訳家。広島県在住。 この詩集は、中原中也賞を受賞されています。 2000年7月初版です。 『来日して、足かけ十年。日本語で少しずつ書くようになってからは、八年近くなる。』とあとがきにきされています。 雨読の誕生日 梅雨が 尾を引いている二十七歳の誕生日 読書に耽って過ごした。 少し黄ばんできた。 二十六章ある本の 再読。 思っていたよりも粗くないかーー 途中で閉じた。 窓の外の雨をじっと 精読。 バナナ 屋上で バナナを食べた 半分ずつ 遠い南国のこと 搾取のこと 農薬、死んでいく愛のこと 一つも 考えないで 霞んだ街 見下ろしながら バナナを頬張った バーコード ぼくが書いた初めての本の表紙に バーコードが付いている。 自分のつぶやき か何かのつもりで綴ったものだが これで商品になった ーーそんなことを バーコードが見せつけるようだ、 本を手にするたびに 「目に入らぬか」と。 いつまた新しい本が出るか 分からないけれど いずれは詩も一品一品 バーコードで分類され スーパーのレジみたいに 読者がそれを「ピッ」と読み取って あげくにはぼくら 言葉を捨ててバーコード文学を 営むようになるのだろうか。 ぼくがこんな取り越し苦労をするのは 思いやられる 自分の頭髪の将来が そこに見えるからか。 率直な爽やかでいて、ユーモアがある詩風です。 アーサー・ビナードさんは、この時期かなり忙しく日本中を駆け巡られています。妻帯もされています。 明るく、日本語をひねりながら、一生懸命に詩を導き出されているのが、肌で感じられますね。 愉しい詩集でした。
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「記憶は ひんやりした流れの中に立って/糸を静かに投げ入れ 釣り上げては/流れの中へまた 放すがいい。」(釣り上げては) ー 「屋上で/バナナを食べた/半分ずつ/遠い南国のこと/搾取のこと/農薬、死んでいく愛のこと/一つも/考えないで/霞んだ街/見下ろしながら/バナナ...
「記憶は ひんやりした流れの中に立って/糸を静かに投げ入れ 釣り上げては/流れの中へまた 放すがいい。」(釣り上げては) ー 「屋上で/バナナを食べた/半分ずつ/遠い南国のこと/搾取のこと/農薬、死んでいく愛のこと/一つも/考えないで/霞んだ街/見下ろしながら/バナナを頬張った」(バナナ)
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アーサー氏の作品を ほぼ読破していますが これが初めて読む詩集です。 なんて瑞々しい感性なんだろう 成人しても少年の言葉のような 絵が浮かんでくるような 物語調の詩がなんとも素敵です。 故郷ミシガンの大自然から 「釣り上げては」という詩を 釣り上げたのでしょう。 あくまでも子供目...
アーサー氏の作品を ほぼ読破していますが これが初めて読む詩集です。 なんて瑞々しい感性なんだろう 成人しても少年の言葉のような 絵が浮かんでくるような 物語調の詩がなんとも素敵です。 故郷ミシガンの大自然から 「釣り上げては」という詩を 釣り上げたのでしょう。 あくまでも子供目線に近いので 一人称の「ぼく」で詩を書いている のが…なんともピュアです。 一人称でも「オレ」では 全ての詩が台無しです。 この作品で中原中也賞受賞ですね … いつまでもピュアな感性で いてください。 美しくも楽しい日本語を ありがとうとエールを おくります。 表紙の絵もステキでした。
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詩の面白さのひとつは、的を射た表現(ズバリ!ああそれそれ!…なんていうやつですね)にあるでしょう。それ以上でも以下でもない、もうそのことについて他の誰もが書けなくなってしまうようなピンポイントの言い表し。米国出身の著者が日本語で綴った作品たちのなか、その職人技が光ることに感服しま...
詩の面白さのひとつは、的を射た表現(ズバリ!ああそれそれ!…なんていうやつですね)にあるでしょう。それ以上でも以下でもない、もうそのことについて他の誰もが書けなくなってしまうようなピンポイントの言い表し。米国出身の著者が日本語で綴った作品たちのなか、その職人技が光ることに感服します。あまり追いかけすぎると釣り上げられてしまいますから、皆さんどうかお気をつけて。
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