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2013/10/22
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ウンベルト・エーコの原作をジャン=ジャック・アノーが監督した映画「薔薇の名前」の中に出てくる盲目の老修道士は、ボルヘスを意識して作り出された人物である。もちろん現実のボルヘスは、同じ図書館長であっても、ホルヘ神父のように教条主義者ではない。「異端思想家バシレイデスの擁護」では、宇宙生成論について、この世界が「本質的に取るに足りないひとつの過程として想像された世界」であるというグノーシス派のきわめて異端的な発想に肩入れしているほどだ。「夢と迷宮」の作家としてつとに有名なボルヘスだが、その博識を縦横に駆使した評論、エッセイにおいても、詩や小説に決してひけを取らない面白さを持っている。その話題は哲学や神学、修辞学、異端思想、神秘主義、それにもちろん文学、と多岐に渡る。ボルヘスの持ち出す話題は、現代の生活においては、あまり重要視されないものばかりかもしれない。「カバラの擁護」しかり、「地獄の継続期間」また、しかり。しかし、どの話題の中にも純粋に思考することの喜びが溢れている。人々が顧みることを忘れた古典主義的作品の意義について擁護の論陣を張る「現実の措定」では、非個性的な文章こそが実際には効果的であるという逆接を極めて説得力のある文章で論じてみせる。ある種の思い込みをくるりと反転させてみたり、見慣れたものに別の面から光を当ててみたりという観念の遊技を好む人にとっては、極め付きのエッセイ集といえるだろう。

Posted byブクログ