その時は殺され… の商品レビュー
軍政、密林、など中米小説基本セットのような舞台装置に案内されながら、見せられたのは優雅な悪夢とでも呼ぶべき、夢かうつつかという世界。過去にあまり読んだ経験のない雰囲気を持った中編小説。 タンジールに居てグアテマラを想う作者の不安定な心理が、ページに湿り気をもたらすような気にもさせ...
軍政、密林、など中米小説基本セットのような舞台装置に案内されながら、見せられたのは優雅な悪夢とでも呼ぶべき、夢かうつつかという世界。過去にあまり読んだ経験のない雰囲気を持った中編小説。 タンジールに居てグアテマラを想う作者の不安定な心理が、ページに湿り気をもたらすような気にもさせる。全編に漂う不穏な空気、これを書けるのは一握りの作家だけだと思う。
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グアテマラの小説。元軍人の大学生、友人の中尉、彼が一目ぼれする女性、グアテマラの現状を暴こうとする作家などを中心に起こる、疑惑と殺人を描く。簡潔な文体が特徴的。 サスペンスと見れば、ストーリーはそこそこ面白い。ただ、何かが決定的に物足りない。確かに文体はユニークなのだが、それ...
グアテマラの小説。元軍人の大学生、友人の中尉、彼が一目ぼれする女性、グアテマラの現状を暴こうとする作家などを中心に起こる、疑惑と殺人を描く。簡潔な文体が特徴的。 サスペンスと見れば、ストーリーはそこそこ面白い。ただ、何かが決定的に物足りない。確かに文体はユニークなのだが、それとは別に要因があると思う。場面が飛びすぎているし、人物同士のやりとりが表面的だからだろう。結果、主要キャラが死んでも今一つ悲しみが湧いてこない。おそらくこの作品は、内戦は終わったはずなのに人があっさり死ぬ、そしてそのことが大して世の中に影響を与えない、そういうグアテマラの現状を描こうとしたのだろうが、あまり成功しているとは言い難い。
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和平協定が成立した直後のグアテマラが舞台。1996年の和平に至るまでに、軍事政権下で「失踪」した人々は20万人に上ったという。軍人としての生活に嫌気がさし、大学で新しい人生を模索する青年エルネスト。彼が恋に落ちる女子学生エミリアは、上層階級の出ながら、インディオたちの左派運動を支...
和平協定が成立した直後のグアテマラが舞台。1996年の和平に至るまでに、軍事政権下で「失踪」した人々は20万人に上ったという。軍人としての生活に嫌気がさし、大学で新しい人生を模索する青年エルネスト。彼が恋に落ちる女子学生エミリアは、上層階級の出ながら、インディオたちの左派運動を支援する。そして、彼女の手を借りながら、グアテマラにおける人権侵害の実態をヨーロッパに伝えようとするイギリス人の老作家、ルシアン・リー。3人がたどる運命を軸に、この国に訪れた「平和」の意味を、短く鮮やかな断章でつないだ中編である。内戦はもうない。だがグアテマラ社会にしみついた恐怖は、親友同士の間、恋人同士の間にさえ、不意に出現して、人をあっけなくさらってゆく。「野蛮な暴力とは、そこここで姿を見せ、特定の個人とかかわりのない力だった。人間の制御を超えた、圧倒的で無目的な力だった。」そしてそのことを知る者たちは、どれほど遠くに逃れようとも、ふたたび引き寄せられずにはいられないのである。彼らにとっての故郷グアテマラのように。
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