カフカのかなたへ の商品レビュー
ドイツ文学者であり、『フランツ・カフカ小説全集』(白水社)の個人訳に取り組んだ著者が、カフカの文学の諸テーマについて、エッセイ風に書きつづった本です。 「原本あとがき」で著者は、これまで数多くのカフカの解釈がものされてきたことを授業のなかで紹介しながら、「でもネ、やはり作品にも...
ドイツ文学者であり、『フランツ・カフカ小説全集』(白水社)の個人訳に取り組んだ著者が、カフカの文学の諸テーマについて、エッセイ風に書きつづった本です。 「原本あとがき」で著者は、これまで数多くのカフカの解釈がものされてきたことを授業のなかで紹介しながら、「でもネ、やはり作品にもどって、自分の目でたのしむのが第一ですよ」と語ってきたことを述べています。 カフカの「掟の門」は、これまで名だたる文学者や哲学者、思想家たちによってさまざまな解釈が提出されてきました。著者は、この作品を紹介したうえで、カフカが死の二年前に記した、「喩えについて」というタイトルを付された文章をとりあげます。これは、「喩えがいったい何を意味しているのか誰にもわからず、詳しく話してもらえず、だからといって何の役にも立たない」という嘆きにはじまる人びとの会話を叙述したものです。ここには、作品をなにかの「喩え」として解釈することの自己言及的な構造にはまり込んでしまうことについて、あらかじめ警告があたえられているとみなすことができるでしょう。「ことばによる謎に謎をかさねていけば、最後には沈黙と同義語のパラドックスしかのこらない」と語る著者は、「謎解き」のゲームにはまり込むことで、「喩えのなかで勝っただけ」に陥ることを回避する身振りを演じてみせているのかもしれません。
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