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アンモナイトの谷 の商品レビュー

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2023/09/15

『蛇が、とぐろを巻いたみたいに見える石』―『1』 古生物学が専門ではないけれど、地質学を専攻していたのでリサイクル本の中のアンモナイトという単語に目が自然と吸い寄せられる。よく利用する図書館では既に貸借はデジタル管理されているので、昔ながらの図書の貸し出しカード(それと見返しに...

『蛇が、とぐろを巻いたみたいに見える石』―『1』 古生物学が専門ではないけれど、地質学を専攻していたのでリサイクル本の中のアンモナイトという単語に目が自然と吸い寄せられる。よく利用する図書館では既に貸借はデジタル管理されているので、昔ながらの図書の貸し出しカード(それと見返しに付されたカードを入れるポケット)による貸し出しの記録が、はたして、その本の仕事ぶりを全て示しているかは判らない。けれど、その記録紙にはたった一行だけの貸し出し記録が記されており、10.10.1、までに返却するように求めている。本の出版が1997年なので、これは差し詰め、平成10年10月1日まで、という意味だろう。出版年に納本されたとすると、翌年に貸し出された後、25年間誰にも貸し出されず、そしてそのまま除籍となった可能性はある。しかし、それが本の良し悪しを示すという訳でもない。 これはいわゆるロードノベルと呼ばれるジャンルの一冊で、ここには一人の少年の成長譚が記されている。著者は児童文学を主に書く人のようだが、そう言われてみれば確かにジュヴェナイル小説という雰囲気もある。しかし描かれているのは、未成年の少女が産み里子に出された少年が抱える葛藤で、一般的な思春期の悩みと言う訳にはいかない。翻訳者のあとがきによれば同じ著者による似たような物語もあるとのことで、この作家にとっての一つの取り組み、乗り越えなければならないテーマのようなものがここにあるのかも知れない。 ロードノベルと言ったのは、この少年が産みの親を探して、育ての親には内緒で一人イギリスの片田舎へ旅するというストーリーだからなのだが、少年を生んだ少女の過去のモノローグと旅する少年のモノローグが時間を越えて交錯しながら進む物語は、単純ではあるものの読者をはらはらとさせる。そういうジェットコースター的な物語は、基本的に余り好みではないけれど、エピローグは大団円ということもなく、至極現実的なエピソードと、それでもほんのり予定調和的な雰囲気を出しながらも、少年の孤独がほんの少しだけ癒され、孤独が自律に変化するような描写はあざとさも抑えられていて受け容れやすい。少女のモノローグが最後に変化する辺りも、効果的だ。 児童書で例えて言うなら、「車のいろは空のいろ」と「いやいやえん」を足したような一冊で、深読みするような小説ではないけれど、ほんのりと暖かい気持ちの湧く物語。

Posted byブクログ