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プレイン・ピープル の商品レビュー

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2017/09/09
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オカルト抜きの北米版蟲師の世界に暮らす人々、とでも言えばいいだろうか。アーミッシュやメノナイトの起源は宗教改革下のヨーロッパ。聖書の教えに従うなら、洗礼は成人の自由な意志によるべきと唱え、1525年のある晩に互いに洗礼を行った。 それは教会の権威を否定する行為とされ、再洗礼派と呼ばれた彼らは多くが虐殺された。スイスの山岳地帯の荒れ地でひっそりと暮らしていた彼らは、18世紀には自由を求めて新大陸のペンシルバニアに移住。 北米での彼らは多くの派に分かれ、文明の利器を受け入れた人々もいれば、文明を拒絶するステレオタイプのアーミッシュになった人々もいた。 アーミッシュは、教義上写真に取られることが許されてないため、その研究書にも彼らの写真はごくわずかしかないことが多いが、この本は写真が多く、またその質が高いことが特徴。 彼らが話すのはペンシルバニア・ダッチと呼ばれるドイツ語の方言。著者たちのような日本人をもEnglish(「外の人」)と呼び、壁を作る。 アーミッシュの禁止事項は一貫性が見出しづらく、外部の人間には理解しづらい。家に電話つけるのは禁止だが農地に電話ボックスを設置するのはOK、電線から電気を引くのはダメだが電池はOK。自転車はダメだがローラーブレードは構わない。アーミッシュやメノナイトは多く派に分かれていて、ルールもそれぞれ違い、普通の現代人の生活をしている集団から半ば中世の生活スタイルを守る人々までバラバラ。こうしたルールは彼らが新しいものに接するたびに議論によって決められる。彼らは技術自体を悪だと考えているわけではなく、あくまで家族や共同体の絆を崩すものを受け入れないということらしい。電話を家に置けば、直接顔を合わせなくなりかねない、自転車で個人の行動範囲が広がれば、家族は拡散してしまう。 目立とうとすること、プライドを持つことは聖書の教えに逆らうことになるため罪とされる。写真を取られることが禁止されているのもそのため。高等教育を受けることも必要以上の知識を得ること、自分を他人より優れたものにし、うぬぼれを育てることになるため禁じられる。 アメリカでは1930年代に近代的な学校制度が始まり、16歳までが義務教育期間となったが、この動きに対してアーミッシュは頑強に抵抗し、子供の進学を拒否した親は投獄された。 だが1972年、連邦裁判所はついにアーミッシュの主張を認める。アメリカが羨ましく思えるのは、そのときの判事のことば 「いかに風変わりなものであろうとも、社会の大勢とは違っていようとも、アーミッシュのコミュニティーは極めて成功した社会集団である。高等教育に代わるアーミッシュの家庭教育は、外界との関係に制限を設けた社会のなかで日常生活を送る上で効果的に機能している。アーミッシュの社会は知的な生活よりも善良な生活を、技術的知識よりも賢さや知恵を、競争よりも共同体の幸福を求め、現代社会との統合よりも分離を重視するのである。」 便利さ、快適さを極限まで追求した結果、全土が都市化し、「村」が消滅してしまったのが現代日本で、それによる日本人の喪失感を補完してくれるのが『蟲師』なわけだが、実際にその生活を続ける集団が今でもいるアメリカは羨ましい。 アーミッシュとを一言で言えば、生活スタイルとアイデンティティが一体化した集団なのかもしれない。

Posted byブクログ