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最澄(3) の商品レビュー

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2022/12/01

最終巻では、密教に対する考えかたのちがいから空海との仲が疎遠なものとなり、さらに最澄を排斥しようとする南都仏教の勢力との抗争が本格化していく経緯がえがかれ、最澄の死によって物語の締めくくりを迎えます。 最澄が、空海のもとにある『理趣釈経』を借りようとしたことや、最澄の弟子の泰範...

最終巻では、密教に対する考えかたのちがいから空海との仲が疎遠なものとなり、さらに最澄を排斥しようとする南都仏教の勢力との抗争が本格化していく経緯がえがかれ、最澄の死によって物語の締めくくりを迎えます。 最澄が、空海のもとにある『理趣釈経』を借りようとしたことや、最澄の弟子の泰範が比叡山を去り、空海のもとへ出奔ったことなど、両者のあいだの齟齬が深まっていき、やがて両者は訣別することになります。最澄は、空海とともにあたらしい仏教を日本にひろめることをこころざしながらも、みずからの思いが空海に通じないことに寂しさを感じつつも、みずからの信じる道を突き進もうとします。 その後彼は、天台法華の教えが彼の死後も長く日本に受け継がれていくことを願い、大乗戒壇の設立を朝廷に申し出ます。しかし南都仏教の勢力は、この動きを阻止しようと執拗な妨害をおこない、最澄の弟子の光定は師の願いを実現するために奔走します。 著者が「あとがき」で述べているように、「日本人の心の源流を見極め、数知れぬ地下水脈を開いた」人物として最澄を位置づけ、彼の信仰を小説という形式を通してえがいた壮大なストーリーであるように感じました。日本の伝統的精神の中心をつらぬいている自然観に目を向けつつ、それを大乗仏教の精神を通じて実現しようとした最澄に焦点をあてることで、伝統的精神を開かれたものとしてとらえているところに、著者のねらいがあったといってよいと思います。

Posted byブクログ