アリの町のマリア 北原怜子 の商品レビュー
アリの町のマリア、北原怜子さんを知っていますか? 年配の知り合いの方に強く勧められて本書を読んで、とても衝撃を受けました。 日本にもこんな、マザー・テレサのような方がいたことに。 奇しくも彼女は去年、教皇フランシスコより「尊者」という敬称がつけられたとのこと。 これは、戦後の浅...
アリの町のマリア、北原怜子さんを知っていますか? 年配の知り合いの方に強く勧められて本書を読んで、とても衝撃を受けました。 日本にもこんな、マザー・テレサのような方がいたことに。 奇しくも彼女は去年、教皇フランシスコより「尊者」という敬称がつけられたとのこと。 これは、戦後の浅草、隅田川のほとりにあった「蟻の会」すなわちホームレスの人々がバタヤと呼ばれる廃品回収業を営み、結束して人間らしい生活を勝ち得るための会、において、裕福な教授の家に生まれながら自身もバタヤとなりともに交わい、献身的にすべてを捧げた女性の物語でした。 では、ただの「いい話」なのかというとそうではなく、ところどころにハッとさせられる気付きがあります。 怜子は何も完璧な女性ではなく、迷いながらも前に進む不屈の精神を持った女性でした。 人の支援をするときに、『助けてやる』という上から目線になっていないか、一方的な押し付けになっていないか、厳しく追求される場面もありました。 やらぬ善よりやる偽善、とはいいますが、果たして自分の行動が偽善ではないのか、利己心に満ちた行動ではないのか、とことん真摯に見つめ、過ちに気付いたら即座に正そうとする姿勢に襟を正す気持ちでした。 私はあまり自己犠牲の精神というのが好きではないけれど、それでもここまで命を捧げた人の行いを尊いと思わずにはいられません。これが実話に基づいていることに勇気づけられますが、真摯な想いは人の心を動かすのですね。 彼女自身も素晴らしいですが、私はそれと同時に彼女のご家族の素晴らしさに胸を打たれました。年頃の娘がゴミ箱等から廃品を回収して歩く部落に自ら立ち入り暮らしたい、自分の人生をそこで捧げたいと言ったとして、それを応援できる親がどれだけいるでしょうか。 まして、こんな言葉をかけられるでしょうか。 「一言いっておきたいのはね・・・お前が生きたいから行く、だが、そのうちに飽きたから帰ってくる・・・では、いけないということだ。飽きなくともよりいい仕事を見つけたり、あるいは、結婚という問題も、ないとはかぎらない。そういうときに、去っていくものはいいとしても、あとに残された人たちの立場や、淋しさというものもよく考えなければいけないからね」 戦後という人が生きるには厳しい時代だったと思いますが、人間愛というものを信じてみたくなるような、宝物にしたくなるような物語でした。これは、実話なんですよ。
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『蟻の町』とよばれたバタ屋街がかつてあった。これは蟻の町の「センセイ」こと松居桃樓の綴る、蟻の町とともに生きた北原怜子の生涯。両家のお嬢さんがなぜ、どのようにバタ屋街にはいったのか。そして、バタ屋街と彼女はどうなるのか。 キリスト教だから、と言うことではないけれど、信仰と人間自...
『蟻の町』とよばれたバタ屋街がかつてあった。これは蟻の町の「センセイ」こと松居桃樓の綴る、蟻の町とともに生きた北原怜子の生涯。両家のお嬢さんがなぜ、どのようにバタ屋街にはいったのか。そして、バタ屋街と彼女はどうなるのか。 キリスト教だから、と言うことではないけれど、信仰と人間自身について考えさせられた。そして、それゆえに傍目からみたら『悲劇』になりかねない彼女の最後も、きっと彼女は「ミッション」として(心残りはあろうが)よろこんで受け止めたのだろう。 ぜひ、同じ松居桃楼の『蟻の街の奇蹟』も会わせて読んで欲しい。
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